中国による有事を想定、日米が合同演習を実施
大規模図上演習「ヤマサクラ」を米軍キャンプや健軍・朝霞駐屯地で
陸上自衛隊西部方面隊と米陸軍・海兵隊が参加する日米共同指揮所演習「ヤマサクラ」が12月2日から14日まで健軍駐屯地(熊本市)や朝霞駐屯地(東京都練馬区など)、沖縄県うるま市の米軍キャンプ・コートニーなどで実施された。仮想敵国に対する明言はないが、軍事拡大する中国による有事を想定し、日米合同作戦での上着陸阻止や島嶼(とうしょ)部での戦闘作戦をシミュレーションした。(沖縄支局・豊田 剛)
コロナ禍の影響で、今回初めて仮想(バーチャル)の技術使用
ヤマサクラは、日米が共同で作戦を実施する際の命令系統などを確認・訓練する大規模な図上演習で、年に2回開催される。79回目となる今回参加したのは、陸上自衛隊西部方面隊(熊本市)、米太平洋陸軍第1軍団(ワシントン州)、同海兵隊第3海兵機動展開旅団(3MEB、うるま市)で、期間中の参加人数は約5000人に上った。2018年に長崎県の佐世保駐屯地に設置された水陸機動団が主要な役割を担った。
今年は新型コロナウイルスの感染を防ぐため、対面の環境をできるだけ減らし、健軍駐屯地や米太平洋陸軍第1軍団のルイス・マッコード統合基地(米ワシントン州)などの拠点をオンラインで結んだ。
演習の主眼は、対着上陸戦闘と島嶼部での戦闘作戦だ。日本が侵攻されたとの想定で、着上陸侵攻する敵部隊の撃破と、水陸両用作戦、島嶼部における共同対艦戦闘をシミュレーションした。コロナ禍の影響で、今回初めて仮想(バーチャル)の技術が使われ、双方の幹部らがモニター越しに連携して指揮を執った。
ランディ・ジョージ第1軍団長は開会に当たり「いかなる敵をも阻止する集団的能力を築く」と述べた。また、3MEB司令のカイル・エリソン准将は、「高度な敵に対処するためは、日米がお互いの持つ強みを生かし、一体化した作戦を取る必要がある」と強調した。
「日本を取り巻く安全保障環境は、不透明な動向を示す周辺諸国の脅威に加え、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における軍事革命をはじめ、さまざまな課題が顕在化・先鋭化するとともに極めて速いスピードで変化している。このような厳しい安全保障環境において実効的に抑止・対処するとともに、『自由で開かれたインド・太平洋地域』を実現するために日米同盟はますます重要となる」
陸海空・サイバー・宇宙など多次元統合戦闘をシミュレーション
西部方面総監の竹本竜司陸将は開会式で東アジアの緊張した安全保障環境に触れた。
その上で、「日米共同作戦能力の向上、特に、従来の陸・海・空のみならず宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を含む領域横断作戦の具体化は、喫緊の課題であり、米軍のマルチドメイン作戦(MDO)としっかりと連携していく必要がある」と指摘した。
米軍は現在、多次元統合戦闘を意味する「マルチドメインバトル」という新たな作戦構想を進めている。陸海空すべての領域において一斉に作戦を展開することで、敵を一気に劣勢に立たせることを目指す。
また、防衛領域が陸海空だけでなく、宇宙やサイバー空間まで広がっていることを受け、演習では、中国の軍事力拡大に対抗するための手段として、陸海空などすべての領域を融合し、相乗効果で全体の能力を増幅させる「クロスドメイン」(領域横断)について検証した。
演習では、後方支援での連携も確認された。食糧や人材、輸送、資材、医療の管理だ。在沖米陸軍第10支援隊のハイ・ロビンソン少佐は、「コロナウイルス感染対策は徹底して行った」と振り返った。定期的な体温検査とマスクの着用はもちろんのこと、会議や宿泊の際に密を避けたり、除菌作業を徹底。これが奏功し、期間中、コロナウイルスの感染例はなかった。
竹本陸将は、「コロナ禍でも日米がしっかり連携し演習を実施することは、日米同盟の絆を国内外に示すものであり、戦略的抑止の観点から極めて大きなメッセージとなる」と強調した。
中国は尖閣諸島の領有権を主張し、尖閣周辺海域の領海侵犯を繰り返している。領土領海を守るには、一瞬たりとも隙を見せることがあってはならない。
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ヤマサクラ
ヤマサクラは1982年に始まった日米合同の図上演習。在日米陸軍と陸上自衛隊のそれぞれの部隊章である富士山の「山」と「桜」を取って名付けられた。年2回日米で交互に開かれ、また、全国の陸上自衛隊5個方面隊が持ち回りで実施している。訓練では日米が共同で作戦を実施する際の命令系統などを確認し、演習する。