伝統行事が中止、コロナ禍で一変した沖縄の旧盆
沖縄県内で感染拡大が続く新型コロナウイルスの影響で、8月31日から9月2日までの旧盆はこれまでと大きく変わった。親戚一同が集まらず、風物詩のエイサー演舞はほとんど中止となった。コロナと共存する「ウィズコロナ」時代の伝統行事はどうあるべきか、各自治会は工夫を凝らした。(沖縄支局・豊田 剛)
感染リスク避け親戚集まらず、エイサーは軒並み中止に
沖縄の旧盆は親戚一同が集まって祖先と共に過ごす伝統的な行事があり、地域では数多くの祭りやイベントが行われる。中でも、沖縄本島中部を中心に、青年会が先祖供養の思いを込めてエイサー踊りをしながら集落を練り歩く「道じゅねー」はその代表格だ。
ところが、今年は新型コロナの影響で「3密」を避けるため、ほとんどの祭り・行事は中止を余儀なくされたり、規模が大幅に縮小された。
「旧盆のエイサー道じゅねーは、沖縄の伝統文化でもあり、先祖供養においても重要な行事ではありますが、現在のコロナ禍の状況において道じゅねーを実施することは、地域の皆さま、青年会員、エイサーファンの皆様にとっても危険だと判断した結果です。ご先祖様も理解してくれると思っております」
「エイサーのまち」を宣言している沖縄市の中の町青年会は、ネット上でこう発信するとともに、車で各集落にエイサー演舞をしない理由を説明して回った。代替策として、室内で無観客のエイサー演舞を行い、それをライブ配信することにしていたが、台風9号の影響で、このライブ配信までもが取りやめとなった。
独自の緊急事態宣言を延長、玉城知事は警戒を呼び掛ける
「今年の旧盆はおじい、おばあに会いに行くのを控え、少人数でお線香をあげていただければ」
沖縄県の玉城デニー知事は8月28日、記者会見でこう述べた。親戚一同が集まり、先祖の霊を迎えて会食などを楽しむ旧盆の3日間は「3密」が発生しやすく、新型コロナの世代間感染のリスクが高まるためだ。沖縄では毎年旧暦7月15日までが旧盆(お盆)の日となっている。
玉城知事は、8月1日から始まった独自の緊急事態宣言を9月5日まで1週間延長させた。県内の警戒レベルは最高の「第4段階(感染蔓延(まんえん)期)」から「第3段階(流行期)」に引き下げたが、旧盆の期間も「警戒を続けながら感染の収まりを見極める期間にしたい」と述べた。
8月中旬から連日のようにコロナ感染による死者が出ており、「高齢者の交流が盛んになる旧盆は感染リスクが高い」と新型コロナに関する県の専門家会議は指摘した。ある県幹部は、緊急事態宣言を旧盆終了まで延長させたのは正しいとした上で、「台風で外出できなかったため、よりいっそう感染を抑えられたのでは」と分析した。
過去に収録したエイサーの音源を流し地域巡る自治会も
中の町青年会のほかにも、多くの青年会が若者ならではの発想で代替案を考え出して対応した。
沖縄市胡屋青年会は台風9号の暴風警報が出ている時間を除き、過去に収録したエイサーの音源を流しながら、自治会が所有する軽トラックで地域を回った。同青年会の宮城大輝会長は「道じゅねーは、歴史的にずっと続けてきたもの。踊れなくなったのは悔しい。どうにか音だけでもという思いで楽しんでほしい」と語る。
旧盆の風物詩をどうしても見たい「エイサー難民」たちが、エイサーが見られるところはないかと尋ねる書き込みがあちこちで見られたが、県外のファンが最も多いうるま市の平敷屋(へしきや)青年会ですら旧盆期間中は道じゅねーは行わず、拝所での奉納演舞のみを規模を縮小して実施した。
うるま市の60代の男性は、「こんな静かなお盆は生まれて初めて」と話す。いつもなら親戚が20人ほど集まるが、今年は妻と長男の3人だけで行事を済ませたという。先祖送りの「ウークイ」行事の時はSNSを通じて親戚にリモート参加してもらい、地元青年会のエイサー演舞の動画を視聴するなどして、気分だけでも“いつもの旧盆”を楽しんだ。
また、旧盆とその前後には綱引きや獅子舞などの行事を行う所もあるが、これらのほとんどは中止となった。
普天間宮の新垣義夫宮司は、「コロナ禍であらゆるイベントが中止か延期になっているが、どの地域でもまつりごとは守っている」と指摘。コロナ禍で集会やお祭りが開けない中でも、神社が伝統を守る役割を果たしていることを強調した。








