首里城火災から半年、県は歴史まちづくりを推進

 昨年10月31日、首里城の正殿など主要な建物が焼失した火災から半年が経過した。沖縄県はこのほど、首里城公園と周辺のまちづくりを盛り込んだ「首里城復興基本方針」を発表した。コロナウイルス感染拡大の影響で解体作業や再建に向けての動きが弱まっている。(沖縄支局・豊田 剛)


首里城火災から半年、県は歴史まちづくりを推進

新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から立ち入り禁止となっている首里城=4月29日、沖縄県那覇市(豊田 剛撮影)

 首里城の火災は昨年10月31日未明に発生し、正殿など6棟約4千平方㍍が全焼。収蔵していた400点ほどの美術工芸品も焼失した。

 あれから半年たったゴールデンウイーク(GW)の休日。現在の首里城を訪れる人々はほとんどいない。火災現場では、焼け残った骨格の解体やがれきの撤去作業が進んでいる。

 首里城公園の城郭内は昨年末に公開を再開したが、新型コロナウイルスの感染拡大で4月19日に再び休園。GW中の一般公開を目指して、正殿の地下に残る遺構の公開に向けて準備が行われてきたが、延期になった。公開の見通しは立っていない。

 地元の六つの住民団体は4月、首里城周辺地域の活性化を目的とした「首里城周辺まちづくり団体連絡協議会」を立ち上げ、首里城再建を機に、住民にも観光客にも魅力あるまちづくりをしようと動き出したが、新型コロナウイルス感染の影響でその機運はしぼんでしまった。これまで、周辺地域の交通渋滞の解消や周遊型の観光などを行政に提言してきたが、協議会の会合は新型コロナの影響で一度も開けていないという。

沖縄県が「首里城復興基本方針」を発表

首里城火災から半年、県は歴史まちづくりを推進

首里城復興基本方針を発表する玉城デニー沖縄県知事=4月24日、沖縄県庁(豊田 剛撮影)

 こうした中、玉城デニー知事は4月24日の記者会見で「首里城復興基本方針」を発表し、「多くの県民が未来に向かい、希望を持って歩んでいけるよう、取り組みを進める」と語った。

 首里城跡は国立公園。首里城の再建に責任を持つのは、所有権を持つ国であり、県が再建に協力する立場だ。政府は3月末、正殿を2026年に再建する工程表をまとめた。

 沖縄県が発表した復興基本方針は、国の工程表を補足する形で、首里城周辺の文化財の復活とそれらを一体としたまちづくり、伝統技術や歴史資産の活用などを理念に掲げている。

 中でも、目玉となるのは歴史まちづくりの推進で、「首里杜(すいむい)構想」と名付けられた。首里城の正殿を中心に、県営公園区域にある中城御殿(なかぐすくうどぅん)や円覚寺の復元を計画的に進めていく。

旧日本軍司令部壕の内部を見せるなどの情報発信も

 首里城の地下にあった旧日本軍の第32軍司令部壕(ごう)など首里城周辺の戦争遺跡の保存と継承も基本方針に盛り込まれた。

 司令部壕については、以前から沖縄戦体験者や歴史専門家らが一般公開を求めていた。今回、県は「崩落の可能性があり、公開するのは困難」としつつも、玉城知事は「AR(拡張現実)などの情報通信技術を駆使し、内部を見せるなど情報発信する方法はある」と述べた。

 九つある基本方針の二つ目に掲げられたのは、火災の原因究明と防火設備・施設管理体制の強化。再建に当たり防火設備を強化することは国と県で一致。「国と連携」するとしている。

 国は、火災の早期発見と迅速は初期消火のために、スプリンクラーの設置と連結送水管設備の整備を検討している。スプリンクラーは展示される文化財や装飾品が機器の故障によって水浸しになる恐れから導入を懸念する声もあった。今回、導入が求められているのは「予作動式」と呼ばれるもので、ヘッドの破損などでは放水されない。

 ただ、火災原因はいまだに特定されていない。沖縄県警は1月末、「出火原因の特定には至らなかった」として捜査の終了を発表した。管理体制の不備は明らかだが、現状では誰にも刑事責任を問えない。

 昨年の火災では、城郭内に消防車両が進入できないことも問題となった。城郭の周囲から消防隊がホースを長く延長する必要があった。そのため、高層ビルなどで使われる連結送水管を準備する一方で、建物内部に配管設備と放水口を設けて、内部から放水ができるようにする。さらに、消火の水源確保のための貯水槽を増設し、消火栓を新設するとしている。

=首里城復興基本方針の骨子=

①正殿などの早期復元と復元過程の公開
②火災の原因究明及び防火設備・施設管理体制の強化
③首里城公園のさらなる魅力の向上
④文化財等の保全、復元、収集
⑤伝統技術の活用と継承
⑥「新・首里杜(すいむい)構想」による歴史まちづくりの推進
⑦歴史の継承と資産としての活用
⑧琉球文化のルネサンス
⑨基本計画の策定・推進