沖縄県浦添市で深夜の子連れ飲食の制限
松本市長ら提案の条例制定で意見分かれる
沖縄県浦添市が検討する深夜の子連れ飲食の制限についての議論が白熱している。松本哲治市長を中心に教育や福祉、飲食に関わる関係者らが11月26日、その是非について意見を交換した。「子供たちのため」という前提では一致したものの、市長が提案する条例制定では意見が分かれた。(沖縄支局・豊田 剛)
市長らは模合や部活打ち上げなど夜更かしに自重を訴える
条例制定反対派は「家庭によって事情が違う」
未成年の子供同伴で夜遅い時間帯に居酒屋に行く。大人が酒に酔っている間は、子供たちは隣で寝ているか、キッズルームで遊ぶ――。
沖縄では当たり前の光景だが、このままでいいのか。遅い時間帯の子連れ飲食制限の条例化は松本市長が2017年、2期目に当選した際の公約の一つ。18年度には市民意識調査を実施し、95%が子連れの深夜飲食に否定的で90%が条例制定に「よい印象を持つ」と回答した。これを踏まえ、市内のPTAや自治会、事業者らが議論を重ねてきた。
26日に開かれた意見交換会は「円卓会議」という形式が取られ、司会を含めた8人がテーブルを囲んで自由に議論した。この会議は約2年間の議論の集大成と言えるものだったが、結論を出すには時期尚早と判断された。
松本市長は、前提として「沖縄には夜更かし社会がある。夜10時すぎ、酒場やたばこを吸う所に子供が一緒にいていいのか」と指摘。例として、居酒屋で行われることが多い「模合(もあい)」(注)や部活動の打ち上げを挙げた。
同市長と司会者を除く6人の登壇者のうち、おおまかに賛成2人、条件付き容認2人、反対2人と意見が分かれた。
市PTA連合会の荻堂盛嗣会長は「模合や部活の打ち上げは昼に時間をずらすなど工夫できる」と提案。浦添市の議論を受け、那覇地区と県のPTA連合会で、子連れ飲食を控えるよう促すポスターを作製し、飲食店に配布する活動をしている。「小さいうちにお酒の味を覚えてしまうリスクがある」と指摘する荻堂氏は「学校が地域や保護者を巻き込んで啓蒙(けいもう)活動をしながら、親子一緒に生活習慣を変えていくことが大切だ」と、条例制定に前向きな姿勢を示した。
塾経営の中村智治氏は、沖縄との教員交換事業で来ている秋田の教師が「生活習慣は教えることができない」と嘆いていたというエピソードを紹介。生活習慣や環境を変えることが子供たちのためになるという観点から、条例制定に「賛成する」と明言した。
浦添中学校の内田篤校長は、多様な家庭があることを念頭に、「家庭に押し付けるよりは社会全体で子供たちを守っていきたい」と話した。
県飲食業生活衛生同業組合浦添支部の狩俣博美支部長は「市内で規制すると市外に客が流れる心配もある」と指摘し、全県で取り組むことを提案した。その上で、「宮古島は居酒屋でもほとんどが10時に閉まり、宮古島の子供たちの成績は良い」と生活習慣と学力の相関関係に言及した。
最も批判的だったのは、琉球大学教育学研究科の上間陽子教授だ。「しつけの話で盛り上がるのは、仮想敵をつくって相手を裁こうとする心理があるからだ」と分析。貧困層を念頭に、「どういう人が子連れ飲食をしているか分からないまま、施策を打つのは問題」と力説した。
子育てNPO代表の大城喜江子氏は、家庭によって事情が違うものを条例によって縛るべきではないという考えを示した。
来場者からは、「居酒屋に子供がいる光景は異常で、午後10時までに帰宅を促すなど店側に努力義務がある」「性急に答えを出さずに議論すべきだ」との意見が出された。
市は会議で出た意見や来場者アンケートの結果を踏まえ、条例化の是非、または宣言にとどめるのかなどを含めて検討するとしている。
ただ、「政治が何かを決めることは思わぬ波及効果があり、いったん表に出ると制御できなくなる」(上間氏)という指摘もあり、条例制定までのハードルは高い。
約2時間半に及ぶ白熱した議論を経て、松本市長はこう振り返った。
「沖縄の夜更かし社会をこのままでいいのかというのが問題提起の出発点。開き直るのが沖縄社会の悪いところ。自分たち(大人)の都合を優先する風潮を変えていきたいという思いだ。問題提起ができ、市民、県民の意識が変われば、それはそれで良いことだ」
=メモ= 模 合
友人などがグループを組織して一定額を払い込み、1人ずつ順番にまとまった金額を受け取るもの。沖縄県と鹿児島県奄美地方で主に実施されており、居酒屋で集まることが多い。本土における頼母子講に相当。







