「赤旗」の米大統領選 綱領で解けぬトランプ氏

TPP反対には「当選」強調

「赤旗」の米大統領選 綱領で解けぬトランプ氏

9日、米ニューヨークで演説するドナルド・トランプ次期大統領(AFP=時事)

 共産党にとって米国は“資本主義の宗主国”で特別な国だ。党綱領に同国名が何度も登場する。「アメリカ帝国主義は、世界の平和と安全、諸国民の主権と独立にとって最大の脅威となっている」「その覇権主義、帝国主義の政策と行動は、アメリカと他の独占資本主義諸国とのあいだにも矛盾や対立を引き起こしている。また、経済の『グローバル化』を名目に世界の各国をアメリカ中心の経済秩序に組み込もうとする経済的覇権主義も、世界の経済に重大な混乱をもたらしている」などだ。

 このため、共産党は米大統領選挙に重大な関心を持ち、当選した次期大統領には攻撃の手ぐすね引く。「アメリカの対日支配は、明らかに、アメリカの世界戦略とアメリカ独占資本主義の利益のために、日本の主権と独立を踏みにじる帝国主義的な性格のもの」(党綱領)とみるからだ。

 ところが、ドナルド・トランプ氏は同党綱領に記された「アメリカ」の枠にはまらない。グローバル化に反対するキャンペーンで支持を集め、共産党からみれば環太平洋連携協定(TPP)も「米国中心の経済秩序に組み込もうとする経済的覇権主義」だろうが、トランプ氏は猛烈に反対した。

 トランプ氏当選を報じた同党機関紙「しんぶん赤旗」(11・10)1面トップは、「米大統領にトランプ氏/世界にも衝撃・警戒」の見出しで一般マスコミと似たり寄ったり。綱領ほどには敵対感情がほとばしっていない。

 「志位和夫委員長が談話」では「トランプ氏の勝利は、格差と貧困の拡大、中間層の没落などに苦しむ米国社会の矛盾と行き詰まりの一つの反映にほかならない。それはまた、多国籍企業中心のグローバル資本主義の陥っている深い矛盾を示している。トランプ氏は、移民問題などいくつかの危惧される発言を行っているが、新大統領として、今後どのような政策を提示するのか、注視していきたい」と淡々としたものだった。

 10日にTPP承認案が衆院を通過すると同紙11日付は「離脱表明のトランプ氏当選直後/TPP 自公維が採決強行」と、まるで鬼の首を取ったかのように与党と維新を「愚の骨頂」と愚弄(ぐろう)している。記事でも数カ所でTPP反対のトランプ氏当選を引き合いに出す強調ぶりだ。

 しかも、トランプ氏は選挙中に日米安保条約はアンフェアだとして在日米軍撤収の可能性に言及した。発言のままなら綱領のいう「対日支配」「日本の主権と独立を踏みにじる」とは方向を異にする。

 また、野党としての格差批判などは共産党と立ち位置が似通っており、同紙10日付2面の「主張」は「トランプ氏当選/格差と既存政治への強い憤り」のタイトルだった。とはいえ相手は綱領で敵視する米国。同じ2面の「米国とどう向き合うか」の署名記事は、「今回の大統領選を通じて表面化した米国内の底流の変化をとらえる必要」を説きながらも、「米国がどこへ向かうのか現時点では未知数です」と結んでいた。

解説室長 窪田 伸雄