「誤りなし」と朝日OBの詭弁、「吉田調書」誤報批判に反論

 慰安婦に関する朝日の誤報問題で、多くのメディアで発言する池田信夫は、その著書『朝日新聞 世紀の大誤報』で「日本軍の戦争犯罪を糾弾するのは当たり前で、誰も反論しないので、多少は事実誤認があって大丈夫という感覚があったと思う」と書いているが、同じことは「吉田調書」誤報問題にも言える。

 「WiLL」は1、2月号の2度にわたって、ジャーナリストの櫻井よしこと、元朝日新聞編集委員(現デモクラTV代表)の山田厚史を朝日新聞問題について議論させた。吉田調書誤報を主なテーマにした2月号「『朝日問題』で問われる日本のジャーナリズム」で、朝日のスクープ記事(5月20日付)に関して、山田は「所長命令に違反 原発撤退」の見出しは「誤解」を招いたが、「記事そのものについては、取り消しに値するような誤りはなかった」と主張した。

 その上で、「記事の趣旨は、過酷事故が起こった場合、原子炉を制御する電力会社の社員が現場からいなくなる事態が十分起こりうる。その時、誰が対処するのか。……現実を直視した議論が行われないまま原発を再稼働していいのか、ということです」と述べた。

 これに対して、櫻井は「朝日知識人の典型的な騙(だま)しの論理」と憤慨する。つまり、「一時退避」とすべきところを「撤退」としたのは、「九割が現場から逃げたという」のは「極めて悪意のある印象操作だ」という。当然の指摘である。

 山田は「『逃げた』なんて書いていない」と反論する。しかし、撤退とは「軍隊などが、陣地などを撤去して退くこと」(広辞苑)である。しかも「命令違反」となれば「逃げた」と言ったも同然ではないか。山田の反論は、自己正当化のための「詭弁」と言えるものであって、慰安婦報道と同じく事実を公正かつ正確に報道するというジャーナリズムの原則をないがしろにするものでしかない。

 スクープ記事が出た時点で、吉田調書を入手したのは朝日だけだった。読者に対する責任の軽視、多少の事実誤認があってもだれも反論できないというおごり、さらには強いエリート意識から生まれるイデオロギー偏重の報道姿勢が一挙に噴出しているのが朝日問題だ。潔く誤りを認めて、速やかに訂正してさえいれば、朝日も今のような危機的状況に陥ることはなかったろう。

 前社長の木村伊量に代わって新社長に就任した渡部雅隆は23日付1面でこう述べた。「読者に公正で正確な記事を届けるという大原則が二の次になっていました。私は、こうした『体質』を一掃し、私たちの意識を変える改革を進めます」。その道険しである。(敬称略)

 編集委員 森田 清策