「朝日」の反転攻勢、「脅迫」でも説明責任残る

 慰安婦についての朝日新聞の誤報問題が新たな波紋を広げている。きっかけとなったのは慰安婦報道に関わった元記者の関係する大学に脅迫状が届いた問題。これを反転攻勢のチャンスとばかりに、社説や天声人語、その他報道で「暴力は許さない」とキャンペーン化する朝日に対して、保守派の論客らが批判を強めているのだ。

 「正論」12月号で、「朝日新聞は本当に反省しているのだろうか」と切り込んだのは八木秀次・麗澤大学教授(「[コラム特別版]早くも居直ったか! 謝罪から1カ月で驚愕記事が続々」。「脅迫は卑劣で決して許されない」としながらも、八木は朝日の木村伊量社長が行った謝罪会見(9月11日)は、原発事故に関する「吉田調書」の誤報問題がメーンで、慰安婦に関する誤報への謝罪は「序でに、付け足しで行った謝罪だったと思わざるを得ない」として、朝日の反省に疑念を呈している。

 また、コラムニストの勝谷誠彦氏は朝日新聞が社説や天声人語で、「暴力は許さない」と叫んでいることを指摘した上で、「言論弾圧の被害者を装うことで『全面反転攻勢』を仕掛けようとしている」(「いつの間に! オノレが被害者 朝日新聞(笑)」=「WiLL」12月号)としながら、「社長が謝ったところで社員たちは根本のところでは悪いと思っていないのだ」と述べている。

 勝谷氏は木村社長の謝罪について評価しているが、果たしてそうだろうか。八木氏の分析のように、仕方なしに行った謝罪であり、根本では反省していないと見るのが妥当だろう。“慰安婦狩り”をやったという吉田清治氏の虚言を事実として報道したり、「女子挺身隊」と「慰安婦」を混同して報じたりしたことはあったが、慰安婦問題についての朝日の報道の核心は正しいのだと信念めいたものがあるのだろう。

 朝日は10月7日付「メディアタイムズ」で、大学への脅迫文や元記者の家族への攻撃問題を取り上げた。八木氏はこの欄に、慰安婦誤報問題では「執筆の経緯を元記者が自ら説明すべきだ」とコメントを寄せた。この元記者というのは、女子挺身隊と慰安婦を関連づけて記事を書いた植村隆氏のことだが、八木氏はこうも指摘する。

 「植村氏には『記事を捏造した事実は断じてない』と言い張る根拠を明確に説明し、朝日新聞も社としての見解を示してもらいたいが、多くは期待できない。朝日新聞は自社の慰安婦報道の問題点を矮小化し、責任回避を図ろうとしているからだ」

 前述の「メディアタイムズ」は、植村氏のこんなコメントも掲載した。「家族や職場まで攻撃するのは卑劣だ。私が書いた元慰安婦に関する批判があるが、記事を捏造(ねつぞう)した事実は断じてない。今後、手記を発表するなどしてきちんと説明していきたい」と。

 木村社長が謝罪してからもうすぐ3カ月になる。紙面で誤報を認めてからは4カ月だ。誤報問題に大学や家族に対する攻撃が加わった形になって複雑化するが、植村氏に求められていることは、問題を峻別して考えるためにも早く説明責任を果たすことだろう。

 編集委員 森田 清策