知事選取り巻く言論空間、「辺野古移設」賛成の声を封殺

《 沖 縄 時 評 》

◆地元住民登場しない地元紙

知事選取り巻く言論空間、「辺野古移設」賛成の声を封殺

知事選の候補者討論会で握手を交わす(右から)仲井真氏、喜納氏、下地氏、翁長氏=17日、那覇市内

 沖縄県知事選挙が大詰めを迎えている。同選挙はわが国の安全保障や海洋戦略とりわけ米軍普天間飛行場の辺野古(名護市)移設に大きな影響を及ぼすと見られ、全国的にも注目を集めている。地元には独特の「言論空間」があり、県民の声は必ずしも正しく伝えられていない。地元紙はどう報じてきたのか、改めて検証しておこう。

 沖縄県知事選に対して全国紙もシリーズを組むなど力を入れている。その中で朝日は「2014 沖縄知事選」とのロゴ入りの記事を連載(不定期)している。その11月5日付にこんな記事が載った。

 ―沖縄本島北部にある国頭村の安波地区(約170人)が2011年春、地元の県道上に滑走路を敷き、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先に、との要請書を国に出した。過疎化が進み、那覇など南部との格差が著しく、米軍を受け入れてでも地域を活性化させたいからだ。県外移設を求める声が沖縄を覆う中でのことで、結局、話は立ち消えになった―

 これまで地元紙は県民が「オール沖縄」で結束して米軍基地に反対していると伝え、こうした誘致運動についてはほとんど触れなかったが、朝日は那覇支局と本土からの遊軍記者らが肩肘を張らないで現地の声を拾うといったスタイルで取り上げている。

 6日付では記者が普天間飛行場の移設に向けて国の作業が進む辺野古(名護市)のバーを訪ね、年若い米兵や基地で働く日本人軍属から本音を聞きだそうとしている。記事には軍属が「マスコミは基地に批判的な話を大きく扱う」と渋い顔をしつつ、言葉を選んで語り始めたとある。むろん移設反対派ではない。

 こうした記事が朝日に載るのは選挙の賜物だろう。選挙期間中、新聞には中立報道が求められ、賛成派も取り上げざるを得ないからだ。それとも地元紙が扱わない“ニッチ市場”の感覚で記事にしたのか。いずれにしても地元紙の反米論調に共鳴してきた朝日としては珍しい記事と言ってよい。

◆「強制」とレッテル

 沖縄の地元紙すなわち琉球新報(以下、新報)と沖縄タイムス(以下、タイムス)はこれまで「辺野古移設反対」「米軍基地を県外へ」との主張が「オール沖縄」「県民総意」と書き続けてきた。それで辺野古を取り上げるときも移設反対派ばかりを登場させた。

 今年7月、沖縄防衛局が辺野古の移設工事を始めると、両紙は現地に記者を貼り付かせ、社会面に日々のドキュメントを載せた。その新報のタイトルが編集方針をよく表している。「辺野古 強行の現場から」と、移設工事を「強行」と断じているのだ。連日、新報の社会面には「強行」の文字が躍っている。

 しかし工事は公有水面埋立法に基づき、正当な手続きを踏まえ、埋め立ての承認も得て行われている。昨年、地元の名護漁協組合は圧倒的多数で埋め立てに同意した。

 それにも関わらず「強行」のレッテルを貼るのは反対派の論理でしかない。新聞倫理綱領は「正確で公平な記事」をうたっているが、新報はそこから大きく逸脱している。これでは一般紙でなく反対派の機関紙だと自ら表明したのも同然だろう。

 その「現場」には地元住民はめったに登場しない。例えば直近の紙面をみると、9日付にはこうある。

 「14・02 東京都から約50人がゲート前を訪れ、市民らがカチャーシーで歓迎15・34 ゲート前で市民らが『イムジン河』をうたう」

 東京からの約50人は左翼団体か労組が動員した「闘争ツアー」客だろう。これまでも本土の左翼労組は組合費から旅費の一部を負担し、観光と兼ねて反対運動のイベントに組合員やその家族を動員してきた。辺野古工事が始まるとそうしたツアーが一層増えたという。

 それにしてもゲート前で「イムジン河」を歌ったというのだから、正体丸出しである。この歌は北朝鮮のプロパガンダ楽曲として知られ、70年安保闘争の際、新左翼系が盛んに歌った。韓国を共産化する、いわゆる赤化統一の願望を込めたシロモノである。

 それを今頃、持ち出してくるのだから、全共闘世代の“生き残り”としか思えない。こういうプロ活動家をもって新報は辺野古の「現場」としているのだ。肝心の地元住民は紙面から抹殺されてしまっている。

◆誘致した米軍基地

 だが、辺野古を争点に知事選が始まると、こうした偏向報道は許されなくなった。移設賛成派と反対派がせめぎあっているのに反対派ばかりを取り上げれば、公職選挙法に抵触しかねないからだ。さすがに告示を受けて新報も“慎重”になってきた。

 新報10月31日付の社会面には「最大争点 揺れる市民/名護、移設問題に賛否」(3段見出し)と、珍しく「賛」の文字が紙面に載った。記事には次のようにある。

 「『辺野古区民は基地ではなく政治家に翻弄されている』。国道を行き交う選挙カーに冷めた視線を送るのは、辺野古商工会長の飯田昭弘さん(66)。受け入れによる北部振興策や鳩山政権時代に県外移設案が提案されたこれまでを振り返る。『基地建設はない方がいい。でも国防上必要で、他府県で受け入れる所はない。造られるのなら辺野古のまちづくりのための予算を確保してほしい』と話した」

 いわゆる条件付賛成で、地元・辺野古区のかねてからの主張である。太平洋側にある同地域は東シナ海側にある名護中心街と違って砂浜が少なく、観光地に恵まれていない。それで町村合併(1970年)で名護市になる以前の久志村時代に村民挙げて米軍基地の誘致運動を行った経緯がある。

 それが辺野古の海兵隊キャンプ・シュワブで、歴代の基地司令官は「辺野古区第11班」の班長を勤めてきた。海兵隊員は班員として運動会や清掃行事に参加し、今や「良き隣人」の枠を超えて区民の一部となっている。

 だが、新報はこうした事実をほとんど報じず、賛成派の声を黙殺してきた。ところが、選挙期間中なのでそうはできなくなり、賛成派の声にも触れざるを得なかったのだろう。と言っても記事にはこの3倍くらい多い反対派の声が載っているが。

◆中国の脅威触れず

 一方、タイムスには選挙期間中という“配慮”すらない。例えば、4日付から「記者が各地を歩き、さまざまな風景を報告する」という「知事選 刻々」と題する記事が載るようになった。初回は1面から社会面に展開するワイド版で、辺野古の89歳の女性に米軍基地が建設される前の辺野古の「原風景」を語らせている。

 1面肩には「ザンの海に生かされた」(ザンとはジュゴンのこと)、社会面トップには「豊かな海 記憶の中 移設問題 昔語り濁らす」と、移設問題によって老女の「昔語り」に不都合が生じているとし、自然を守れ=移設反対の図式を描いている。体のよい移設反対候補への肩入れだ。

 「刻々」は5日付で「候補者なう ネット駆使」、7日付で「未来へ一票、高校生動く」、11日付で「若者 争点の場へ」と、いずれも選挙風景を描いている。はっきり言って暇ネタだ。それだけに初回の辺野古の「原風景」の異質ぶりが際立っている。

 つまり、老女を使って辺野古の自然を守れと言わしめ、基地建設反対へと世論を誘導する、その一点のためだけに企画されたとしか思えない。おまけに4日付の「刻々」の左紙面には「ウガンダ男性 反基地エール 辺野古ゲート前訪問」との記事を載せており、この日の社会面は移設反対オンパレードだった。

 ではタイムスは安全保障をどう捉えているのだろうか。7日付社説「基地問題 平和交流の拠点化図れ」は、中国の軍事脅威について一言もない。尖閣諸島をめぐる沖縄の危機もサンゴ礁密漁による自然破壊も、タイムスにとっては意識圏外のようだ。

 その一方で社説は日米の新ガイドライン作成や特定秘密保護法の施行が迫っているとし、「この先にあるのは、米国と一体となった『戦争のできる国』への転換である」と、「戦争のできる国」との朝日流の常套句で反対している。

 こんな「言論空間」の中で、さて知事選の行方はどうなるだろうか。

(増 記代司)