同性婚全米で合法化 さらなる社会の混乱必至

強まる反対派への「逆差別」

一夫多妻に道を開く恐れ

 米連邦最高裁判所が26日に同性婚を禁止した州の規定に違憲判決を下したことで、全米50州で同性婚が認められることになった。だが、結婚の定義を司法が一方的に変えたことに強い反発が出ている。今後、結婚を男女間のものと信じる人々への「逆差別」が一層強まることが予想されるほか、一夫多妻の合法化に道を開く可能性もあり、判決は米社会に大きな混乱をもたらすことは必至だ。(ワシントン・早川俊行)

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26日、ワシントンの米連邦最高裁判所前で判決を喜ぶ同性婚賛成派(UPI)

 同性婚に反対する州はこれまで、州憲法改正などを通じ、男女間の伝統的な結婚の枠組みを守る「防波堤」を築いていた。だが、最高裁が今回、法の下の平等保護などを定めた合衆国憲法修正第14条に基づき、同性婚を憲法上の権利と認定したため、各州の防波堤は無効となった。住民投票で示された同性婚反対の民意は、司法判断で一方的に否定された形だ。

 9人の最高裁判事の判断は5対4の小差。わずか5人の判事が結婚の定義を変えたことになる。民主的手続きを無視して判事の価値観を国民に押し付けたことに対し、最高裁内からも厳しい批判が出ている。

 少数派のジョン・ロバーツ最高裁長官は「最高裁は立法府ではない。同性婚が正しいかどうかは我々に関係ない」と述べ、憲法は結婚について何も言及していないにもかかわらず、拡大解釈で同性婚を憲法上の権利と認定したことに異議を唱えた。

 同じ少数派のアントニン・スカリア判事に至っては、「米国民3億2000万人の支配者は最高裁の多数派だ。9人の判事による憲法修正行為は、国民から自治という最も重要な自由を奪っている」と断じ、独裁者のように振る舞う最高裁を痛烈に批判した。

 宗教界からも判決に対する反発が噴出しており、米カトリック司教協議会会長のジョゼフ・カーツ大司教は、「結婚の再定義を全米に強要することは悲劇的な誤りだ」と主張。「我々は神に従い、真実を教え続ける」と述べ、今後も伝統的な結婚の価値を訴え続けていくと宣言した。

 米国では近年、結婚は男女間のものと信じるキリスト教徒が公職を解かれたり、裁判に訴えられて罰金を科されるなど、信教の自由を否定される事例が相次いでいる。4月には、同性婚のウエディングケーキ作りを断った元ケーキ店経営者がオレゴン州当局から13万5000㌦(約1670万円)もの巨額の罰金支払いを命じられた。今回の最高裁判決により、こうした「宗教迫害」は一段と加速するとみられ、宗教界は懸念を強めている。

 特に、宗教系の教育機関は連邦政府から免税資格を剥奪されることを警戒。野党共和党は、政府が同性婚に反対する個人や企業、団体を罰することを禁じる「憲法修正第1条防衛法案」を提出しているが、伝統的結婚観を重んじる人々を「逆差別」からどう守るかが深刻な課題となっている。

 また、結婚は1人の男性と1人の女性から成るという定義が崩れたことで、今後、一夫多妻や一妻多夫などの合法化を求める動きが出てくることが予想される。保守派弁護士のジーン・シェア氏は、憲法修正第14条を根拠に同性婚の権利を認めることは、「一夫多妻の権利も存在することを意味する」と指摘している。