米保守州に及ぶ同性婚拡大の波
リベラル判事、州の禁止を次々違憲に
米国で広がる同性婚合法化の波は、まるで燎原(りょうげん)の火のようだ。これまではリベラルな州を中心に広がってきたが、最近は保守的な州にまで燃え移り始めている。保守的な州は州憲法などで同性婚を禁じているが、オバマ大統領が指名したリベラルな連邦判事たちが、州の禁止規定は合衆国憲法違反であるとの判決を次々に下し、混乱を巻き起こしている。(ワシントン・早川俊行)
米国 昨年6月の最高裁判決で加速
年々強まる同性婚拡大の流れを一段と加速させたのが、昨年6月の連邦最高裁判決だ。最高裁は、結婚を「一人の男性と一人の女性の法的結合」と定義した連邦法「結婚防衛法」の規定を違憲とした。これにより、同性婚が合法化された州で結婚した同性カップルは、連邦レベルでも婚姻関係が認められるようになった。
最高裁での「勝利」で勢いづく同性婚推進派は、同性婚を認めていない州を合法化州へと塗り替えるため、次々と訴訟を起こしている。ワシントン・ポスト紙によると、同性婚を認めていない33州のうち24州で計47の訴訟が起きているという。
昨年6月の最高裁判決までに13州と首都ワシントンが同性婚を合法化していたが、新たにニュージャージー、ハワイ、イリノイ、ニューメキシコの4州が加わった。ハワイ、イリノイ両州は議会の立法措置を通じて合法化したが、ニュージャージー、ニューメキシコ両州では、州最高裁の判断で合法化された。両州最高裁が合法化の根拠として挙げたのが、連邦最高裁による結婚防衛法違憲判決だった。
上記4州はリベラルな州だが、結婚防衛法違憲判決の波紋は保守的な州にも及んでいる。ユタ州連邦地裁のロバート・シェルビー判事は昨年12月、同判決を根拠に同性婚を禁止した州憲法は合衆国憲法違反であるとの判決を下した。ユタ州は人口の6割をモルモン教徒が占める全米屈指の保守地盤なだけに、判決は衝撃を与えた。
ユタ州の住民は2004年に同性婚を禁止する州憲法改正案を圧倒的多数で承認したが、たった一人のリベラル派判事の判断で民意は覆された格好だ。シェルビー判事を選んだのは、オバマ大統領である。
シェルビー判事はただちに同性婚受け入れを開始するよう命じたため、州内は混乱。州政府は控訴中の同性婚差し止めを求めたが、連邦地裁、高裁はこれを却下。最高裁が1月に差し止めを認めるまでに、1300組以上の同性カップルが結婚した。
ユタ州に続き、1月にオクラホマ州、2月にバージニア州の連邦地裁が、同じく結婚防衛法違憲判決を根拠に同性婚を禁止した州憲法に違憲判決を下した。両地裁判事を選んだのもオバマ氏である。
このほか、同性婚を州憲法で禁じているケンタッキー、オハイオ両州でも、連邦地裁が他の州で合法的に結婚した同性カップルの婚姻関係を認めることを命じる判決を下している。
このように、昨年6月の連邦最高裁判決は、各地の判決の根拠になっている。だが、同判決は、州が定めた結婚の定義を連邦政府は尊重しなければならないことを再確認したものであり、「同性カップルには州も否定できない、合衆国憲法で保障された結婚の権利があるかどうかという根本的な疑問には答えてない」(ワシントン・ポスト紙)。各地の判事たちは最高裁判決を拡大解釈して、同性カップルの結婚の権利を認定しているのが実情だ。
この混乱状況を解消するには、再び最高裁の判断を仰ぐ必要があるとの見方が強まっている。実際に最高裁が現在係争中の訴訟を審理することになれば、同性婚を禁止した州の規定が維持されるか、全米50州で同性婚が一気に合法化されるか、同性婚論争の決定的分岐点となるとみられる。
一方、オバマ政権は、ユタ州政府の意向に反し、同州で一時的に合法化された同性婚1300組以上の婚姻関係を認めると発表。オバマ氏は2012年に同性婚支持を表明した際、「地方レベルで取り組むべき問題だ」と、同性婚の是非は各州の判断に委ねる考えを示したが、これと矛盾する行動を取っている。
野党共和党のテッド・クルーズ上院議員は、「オバマ政権は連邦政府の権限を用いて、州が禁じる結婚を強制的に認めさせようとしている。これは権力の乱用だ」と批判。「オバマ政権は米国史上、伝統的結婚に最も敵対的な政権だ」とまで言い切る。
クルーズ氏ら共和党議員は、連邦政府に州の結婚の定義を尊重させる「州結婚防衛法案」を提出し、同性婚を禁止した各州の規定を守ろうと動いている。






