いじめ最多54万件、教師に見守り育む余裕を


 学校現場で「いじめ解消」を謳(うた)い文句に取り組んでいるにもかかわらず、「いじめ問題」は無くなる気配が無い。

 文部科学省が2018年度に全国の小中高校で起きた、いじめや不登校などの調査結果を発表した。いじめの報告は前年度から約13万件増え、過去最高の54万3933件に達した。

休憩もほとんど無い状態

 「些細なトラブルでも把握・報告する」という姿勢が全国的に強くなったため、報告事例が増えたと言える。教師の子供を守る意識を高め、教育委員会が指導を強めるだけでは、問題の解決にはならない。

 いじめの内容を見ると、「からかいや悪口」「遊ぶふりをして叩く」「携帯電話やスマートフォン、パソコンなどでの中傷」「仲間外れ」など、先生たちから確認され難い形にいじめが変わってきている。加害側の児童・生徒への指導が出席停止など厳し過ぎると委縮させることになるし、他の児童・生徒が加害児童・生徒を無視するなど加害者側と被害者側が逆転してしまうケースも少なくない。指導によって一見、収まったように見える事案も、根深い心の問題が潜んでいて後で噴出することもある。

 先生は通常の業務に忙しいだけでなく、学校での人間関係におけるストレスも非常に多い。特別の教科「道徳」が始まり、小学校では英語の授業も導入された。現状ですら休憩時間がほとんど無い状態の教師に、働き方改革による学校での残業減少が求められている。教師は授業間の休憩時間も次の授業の準備や雑務に追われ、個々の子供の能力を伸ばし育てる環境とは程遠い。

 いじめをはじめとする問題行動や不登校を減少させるには、児童・生徒が安心して過ごせる教室をつくることが肝要だ。児童・生徒の一人一人が先生から尊重され、育まれ、見守られていることを感じるには、先生にある程度の余裕がなければならない。

 東京都千代田区立麹町中学校(工藤勇一校長)などで取り入れられている全員担任制や複数担任制など、複数の教員で生徒を見ることができるシステムを導入すべきだろう。いじめの加害者、被害者双方の言い分、家庭や学校でのストレスなどをしっかりと聞き取り、生徒の悩みを教員間で共有して認めてあげることも必要だ。精神的に追い詰められた時に“駆け込み寺”のような逃げ場をつくることも急務だ。

 だが、学校挙げての対策には責任の所在が曖昧になりかねないという問題点もある。校長が調整役として指導力を発揮できれば良いが、そうもいかないケースもある。

「チーム学校」での対応を

 現状では、クラスの中で担任教師が全ての責任を背負っており、神戸市立東須磨小学校で起きた「教員いじめ」のような人間関係の問題など多くのストレスを抱えている。

 他の教師・職員との情報共有や、スクールカウンセラーへの相談、法的問題と関わってくるならば弁護士を含めた相談も必要になってくる。学校組織を挙げた「チーム学校」での対応が問われている。