児童虐待防止、児相と警察との連携強化せよ


 千葉県野田市で10歳女児が死亡した事件を受け、政府は児童虐待防止法と児童福祉法の改正案を国会に提出した。

 安倍晋三首相は「虐待の根絶に向け、あらゆる手段を講じて子供たちを守る」と決意を語っている。それには法改正だけでは物足りない。「あらゆる手段」をいま一度、精査すべきだ。

「全件共有」は8府県のみ

 児童相談所は福祉の役割を担うことから、児童のケアや保護者(親)の更生を重視し、強権の発動をためらいがちだ。親が虐待を体罰だと言い逃れしても論破できず、容認する傾向があった。それで改正案は体罰の禁止を明記し、児相で子供を保護する「介入」と親への「支援」を分ける措置を取る。また法改正5年をめどに中核市や東京23区にも児相の設置を目指す。

 だが、法律で体罰を禁止したからといって虐待がなくなるとは限らない。児相は現在、全国に212カ所しか存在せず、中核市などに設置しても300弱にとどまる。児童福祉司などの専門職員の不足も深刻だ。政府は2022年度までに職員数を1・6倍にする計画だが、質が担保される保証はない。これで虐待が防げるのか疑問だ。体制拡充に必要な予算確保の見通しも立っておらず、こうした課題を克服しなければ、児相強化は画餅に帰しかねない。

 忘れてならないのは、虐待防止は時間との戦いだということだ。児童虐待を発見すれば国民に通告義務があり、児相への通告は13万件を超える(17年度)。このうち約半数の約6万6000件が警察からの通告だ。警察署は全国に1000カ所以上、交番・駐在は約1万2500カ所以上あり、ストーカーやDV、近隣や職場のトラブルなど犯罪や事件でなくても対応する。それで虐待を疑えば、警察に通報するケースが増える。こうした警察力はもっと活用すべきだ。

 警察庁は3年前から警察官が現場で虐待の疑いが認められないと判断しても、児相や市町村に照会し情報を共有するよう全国に指示している。だが、児相側に警察との連携に躊躇(ちゅうちょ)する傾向がある。昨年発生した東京都目黒区の5歳女児死亡事件では児相が警察や医療機関などとの情報共有をしていた形跡がなかった。

 これを受けて政府は緊急総合対策に、外傷や育児放棄(ネグレクト)、性的虐待が疑われる事案は児相と警察で情報共有を徹底すると明記した。それにもかかわらず、児相と警察が「全件共有」を行っている自治体は8府県にとどまる(昨年10月現在)。戦後、自治体労組には警察を「国家権力の手先」と忌み嫌い、関わりを拒絶する向きがあった。こうした影響が残っていないか改めて問うべきだ。

子供の命守る仕組みを

 米国では「介入」と「支援」を明確に分け、虐待疑いの通報には最初から警察が動き、司法判断に委ねられる。児相は裁判などの司法手続きで弁護側の役割を果たして「支援」に徹する。こうした手法も参考に介入と支援の役割を警察と児相に分け、子供の命と家庭を守る仕組みを構築すべきだ。虐待防止への「あらゆる手段」から警察を排除する愚を犯してはならない。