米の対北制裁措置、制裁厳格化でさらなる協調を


 米財務省は北朝鮮の制裁逃れを支援したとして中国の海運会社2社を新たに制裁対象に指定した。先月、ベトナム・ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談が決裂して以降、北朝鮮関連の制裁措置はこれが初めてだ。北朝鮮が完全非核化に向け具体的な行動に踏み出さなければ制裁緩和には応じないとする米国の断固たる意志を示すもので、日本をはじめ国際社会は改めてこれに呼応し、制裁網構築へ協調体制を強化しなければならない。

中国2社が瀬取り関与

 制裁対象となった2社は洋上で物資を積み替える「瀬取り」を通じ北朝鮮への石油密輸に関与していたという。ムニューシン財務長官は声明で、北朝鮮非核化が成功するには「安保理制裁の完全履行が不可欠」との認識を示した。その上で「不正貿易をごまかそうとする戦術は大きなリスクを伴う」と述べた。

 国連安保理は一昨年末、瀬取りを容易にさせたり、関与することを加盟国に禁じる決議案を採択した。今回の決定はこれに従った当然の措置だ。

 財務省は北朝鮮タンカーへの違法な石油供給や北朝鮮産石炭の密輸に関与した疑いのある67隻の船舶リストも公表した。これらの船舶は台湾、中国、ロシア、韓国など近隣国の港湾施設に停泊した形跡があるという。

 北朝鮮は慢性的なエネルギー不足に悩んでいる。特に独裁体制維持と金正恩朝鮮労働党委員長が昨年宣言した経済建設路線には石油や石炭の確保が不可欠だろう。結局、瀬取りへの関与は北朝鮮非核化を遅らせることにつながる。もっと言うなら独裁を支持する行為にも等しい。

 問題は瀬取り関与の手口が年々巧妙になっていることだ。1件の密輸に複数の国が関わっていたり、多国籍企業を装った上に船を米国保護下のマーシャル諸島に登録するなどして船主の特定を難しくしているケースもあるという。船の立ち入り検査は船員らが激しく反抗するため、実力阻止を自制してしまうこともあるようだ。

 各国の制裁網に抜け穴があるのも問題だ。対北制裁を履行してきたはずの日本も例外ではない。これまで北朝鮮への不正輸出事件に関わった日本企業がその後も北朝鮮への密輸ネットワーク上に再浮上した。日本企業が所有していた船が中国企業に転売され北朝鮮への密輸に利用されたことも分かっている。

 国連安保理決議で北朝鮮への制裁が厳しくなっているのは確かだ。だが、北朝鮮は制裁逃れを巧妙化させ、中国やロシアなど友好国は瀬取りなどでそれに加担している。日本をはじめ北朝鮮非核化を願う国際社会は自国の果たすべき制裁履行を徹底し切れず、北朝鮮の制裁逃れを取り締まる体制も十分とは言えない。

誤解与える「撤回」

 トランプ米大統領はツイッターに「北朝鮮への追加制裁を撤回するよう指示した」と投稿した。協議再開へ北朝鮮に配慮したもので、財務省の発表を覆したものかは不明だが、北朝鮮に制裁緩和に応じる用意があるという誤解を与えることになりかねない。今は制裁の厳格適用を徹底させる時だ。