行政・校長・担任・保護者など“チーム学校”での取り組み必要
沖縄大で「SSWの現状と課題」シンポ
文部科学省が平成26年、「子供の貧困対策大綱」の中で、スクールソーシャルワーカー(SSW)による教育相談体制の整備充実を定めてから5年が経(た)とうとしている。SSWの学校教員との関わり方、個人情報の共有のあり方など、さまざまな問題が浮き彫りになっている。担任だけが抱えるには限界があり、行政、校長、担任、保護者などを含め“チーム学校”での取り組みが必要になってきている。(沖縄支局・豊田 剛)
子供の貧困解決に欠かせぬ存在/幼・保の時期から見守りを
沖縄におけるSSWの現状と課題を話し合うシンポジウムが1月26日、那覇市の沖縄大学で開かれ、社会福祉や学校教育などに携わる人々ら、定員を上回る約100人が集まり、関心の高さをうかがわせた。
スクールカウンセラー(SC)は、児童・生徒の心の問題に着目するのに対し、SSWは児童・生徒を取り巻く環境に注目して問題の解決を図る専門家と位置付けられている。子供の貧困問題が深刻な沖縄県には、SSWの存在が重要になってくる。
シンポジウムでは文部科学省の「教育相談の充実に関する調査研究協力者会議」の座長を務めた野田正人・立命館大学教授が基調講演した。
野田氏は、「一人ひとりの多様な課題に対応した切れ目のない組織的な支援の推進」がSSWの仕事だと強調。個人情報については「守秘ありきではない。使うためにあるもので、しっかり受け取り、分析し、伝え、引き継ぐこと」が大切だと訴えた。
主催した沖縄大学地域研究所の島村聡所長は、「学校不適応者が増えている現在、今後、学校で起きる、さまざまな問題に対処するには現状では不十分。新しいものを取り入れ、行政も力を入れなければならない」と語る。島村氏によると「沖縄の自治体では恩納村と国頭村が先立ってSSWを入れている」という。県内の先進事例として、恩納村教育委員会学校教育課に所属し、村内の小中学校でSSWとして働いている比嘉春奈さんが報告した。
恩納村は現在、五つの小中学併設校があり3人のSSWが配属されている。うち2人は貧困対策支援員だ。比嘉さんは「(不適応者は)小さなことの積み重ねで問題が大きくなるため、幼稚園・保育園の時期からの観察が必要」だと指摘。「学校が抱える最大の問題は不登校で、その背景や要因が多様化しているだけに、学校だけではなく関係機関と連携、早期支援・介入が必要」だと訴えた。SSWは学校・教師との信頼関係がないと適切に動けないのが実情だ。
学校現場を代表して、うるま市具志川中学校の赤嶺幸徳校長がSSWの意義を説明した。赤嶺氏は生徒指導担当教諭時代、同市で中学生が同級生に殺害される事件が起きた。それ以来、「子供の抱える問題は家族構成、経済的問題、疾病など複雑多岐にわたり、解決のためには福祉・医療を含め専門的視点が不可欠」だという結論に至ったという。
うるま市は平成24年度、SSWを配置。関係者が情報共有し、会議で具体的方策と支援を確認している。これまで取り組んできたのは主に、不登校、非行を含めた問題行動、虐待など家庭の事情把握だ。赤嶺氏は、教師が一人で抱え込むことなく、SSWや周辺と共有することで「チームで解決できた」という。
貧困と成績の関係 検証が必要
立命館大学の野田正人教授の講演要旨
日本で初めて不就学・不登校に対応したSSWの起源は、高知市福祉部会の昭和29年に発表した報告書だ。記録によると、市内5校に福祉教員が配属された結果、約75%だった登校率が軒並みほぼ100%になった。クラス別出席率、教科ごとの成績、知能検査などの分布に基づいて分析、チーム体制で連携して行っていた。今、国がやろうとしていることを70年前にやっていたことは驚きに値する。
不登校の解決は家庭訪問だけではできない。
SSWが必要なのにもかかわらず取り組みが進まない理由は、費用対効果が悪過ぎるという考えからだ。学校の教師に意識変革が必要で、貧困問題でも一役担う自覚、ある程度の福祉の知識が必要になる。
不登校の子の場合、就学前からの状況を把握すべきだ。学力が低い場合、いつから傾向が出ているのかを知ることが大切。不登校と学力の相関関係がはっきりしている。成績と貧困も相関する。なぜ貧困だと成績が低いのか。貧富以前の本質的問題があり、一つ一つ検証が必要だ。






