「発達障害バブル」生むチェックリスト
「発達障害診断・治療を問い質す」講演会
「発達障害という診断の下に、子供たちの人権が奪われてしまう」――。教育現場に「発達障害支援」と称して、安易に医療に結び付ける風潮がある。その結果、向精神薬を処方される児童・生徒が少なくないが、東京都内で先月、「発達障害診断・治療を問い質す」と題し、こうした動きに警鐘を鳴らす講演会が開かれた。(森田清策)
安易な向精神薬は人権侵害/子供の脳の発達に「遊び」必要
この講演会は先月15日、精神医療による人権侵害の監視活動を行う市民団体「市民の人権擁護の会」日本支部が開いた。
平成17年4月に施行された発達障害者支援法では、対人関係が苦手な自閉症、読み書きや計算が苦手な学習障害(LD)、衝動的な行動をしがちな注意欠陥多動性障害(ADHD)をはじめ「その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と、発達障害を定義。早期発見が支援のポイントとしている。
「発達障害バブルの真相」をテーマに、基調講演した同支部代表世話役の米田倫康さんは「発達障害は今、ものすごくブームになっているが、そこには理由がある。政・官・業が合わさって生まれた一つの流行だ。これが本当の支援につながっているのか。逆に、行き過ぎた支援がさまざまな弊害を生んでいないか」と問題提起した。
文部科学省は平成14年に行った調査を基に、公立小中学校の普通学級に通う児童・生徒の「6・3%」が発達障害の可能性があるとした。24年の調査では「6・5%」になり、年々増える傾向にある。
だが、米田さんは「この調査は、担任教師による回答に基づくもので、専門家による判断でも医師による診断によるものでもない」と注意を促した。さらに、「精神科領域の科学的な診断は不可能」であるように、発達障害が「脳機能の障害」と言われながら、脳波検査やMRI(磁気共鳴画像装置)などで検査して診断するのではなく、「実際は医師が問診、つまり主観で診断している」と説明する。
前述の調査で使用され、その後教育現場で使われているのが精神科医と心理学者が作った75項目の「チェックリスト」。そこには「初めて出てきた語や、普段あまり使わない語などを読み間違える」「文章の要点を正しく読み取ることが難しい」などの項目が並ぶ。
このように根拠に乏しいチェックリストが「早期発見」のため、教師や医師、そして一般市民にまで広まり、生まれているのが「発達障害バブル」というのが米田さんの分析だ。その結果、平成14~16年の2年間と、20~22年の2年間を比較した場合、6~12歳に対するADHD治療薬が84%増、抗精神病薬58%増となるなど、子供への向精神薬処方が大幅に増えていることを示す統計を紹介した。
チェックリストによる診断は本来発達障害とすべきでない子供に誤ってラベルを貼る過剰診断に陥りやすく、その弊害として、米田さんは「先天的障害とする宣言がショックで、子供の自尊心低下を招く」などの例を挙げながら「困難を抱える人々に対する適切な支援は必要だが、先天的障害という診断が子供の未来を不当に奪っていないか」と指摘した。
「日本ではチェックリストで早期発見し、早期薬物療法につなげるが、海外では発達を促すために脳が柔軟な幼児期に介入する」と、日本の発達障害支援に疑問を呈したのは発達支援「Kids Sense」を主宰する茂木厚子さん。
発達支援の先進地域と言われる米国カリフォルニア州で長年、子供の発達支援に携わった経験を持つ茂木さんによると、日本では発達障害は「病気で治らない」という認識から、その支援は子供を「普通に近づけるための療育・訓練」になっている。
一方、諸外国では、セラピストが発達支援についての知識、環境設定、関わり方を親に教える「親支援」が優先され、それで周囲が変わると、子供の発達は自然に改善に向かうという。
そして「多動の原因は、脳の前庭系・バランス感覚の未発達。ハイハイしないと左右脳の統合の発達が遅い」ことなどを説明した上で、「発達チャートから外れている子供の母親は、発達させるように塾に入れるが、脳の発達に必要なのは勉強ではなく、遊びによる感覚刺激。感覚を育てることで、読む・書く・計算に対応できる脳に育つ。米国では、そこを育てるために、発達支援をやっている。
日本の発達支援は、ほとんど知育ばかり」で、「公園では、回転遊具などバランス感覚を育てるものは撤去され、木登りも禁止。これでは子供の感覚が育たない。発達障害を増やしているのは、私たち大人です」と訴えた。







