限界にある受け身型の沖縄平和教育

「がちゆん」の国仲瞬さん、大学生が新しい研修企画を提案

 修学旅行で沖縄を訪れる学校はほぼ例外なく、平和教育の一環として沖縄県平和祈念公園(糸満市)を訪れる。ただ資料を勉強したり体験者の話を聞くだけの受け身型教育ではなく、自分で考える機会をつくってほしいと、地元の大学生が新しいタイプの研修を企画。引率教員、修学旅行生、地元の旅行会社から高い評価を得ており、新しいタイプの平和教育として定着しつつある。(那覇支局・豊田 剛)

地元の若者と交流し考える環境づくりを

限界にある受け身型の沖縄平和教育

「がちゆん」が提案する修学旅行プログラム

 沖縄出身の国仲くになかしゅんさんは琉球大学に在学中の3年前、ディスカッションサークルを作った。そこでは、違う背景を持った多くの人々と、身近なテーマから真面目なテーマに至るまで、沖縄について本気で話し合った。その土台の上で、修学旅行の沖縄平和教育をコーディネートする「がちゆん」を立ち上げた。「がちゆん」とは、ガチ(本気)でゆんたく(話し合い)をするという意味だ。スタッフ7人で、公的なお金を一切受け取らないことを信念としている。

 「がちゆん」を立ち上げて3年間で、約120校、約22000人の修学旅行生を受け持った。「沖縄には年間、約2500校が修学旅行に来ているが、型にはまった内容で終わらせたくない。自分で考えてもらって“モヤモヤ感”を残して帰ってほしい」と話す。

 沖縄方面の修学旅行は前半が平和学習で後半がマリンレジャーというのが定番となっている。

 「従来の平和学習というのは生徒を消極的にさせてしまっている。那覇空港から見える海を見てテンションが上がっているのに、すぐに平和祈念資料館で平和学習をすることでモチベーションが下がってしまっている」という。

 平和学習では、平和祈念資料館の見学以外で、戦争体験者から話を聞く機会が設けられるケースが多いが、「体験者との世代差が大きい。話を聞いたり資料を見たりする時間が長いため、生徒は退屈してしまう」という課題がある。

 それ故、沖縄修学旅行の前半は生徒の間では「地獄の行程」とも言われている。

限界にある受け身型の沖縄平和教育

平和の礎の刻銘碑に手を合わせる女性=沖縄県糸満市の沖縄県平和祈念公園

 こうした中、「がちゆん」は生徒と同じ目線で、沖縄戦や基地問題など沖縄の問題をどうすればいいのか考える機会を提供している。同世代の若者と意見交換させたい、自分たちの考えを言えるようになってほしいという引率教師のニーズとマッチした。

 国仲さんは「戦争を体験していなくても平和学習ができる」という。戦争や基地の是非について「あえてすっきりさせず、いい“モヤモヤ感”を持って帰ってもらう」のが目標で、「勉強になったと言ったら失敗」だと認識している。

 基地問題では、観念的になりすぎないよう、できるだけ基地を間近で感じてもらうよう、普天間飛行場のフェンスまで案内している。目の前、あるいは、真上を通過する航空機を見ることで、沖縄県民がいかに基地と隣り合わせの生活を送っているかが分かる。また、地元の大学生らと意見交換する中で、ただ基地に賛成か反対かではなく、どのように基地と共存しながら問題解決しようとしているのかを一緒に考えていく。

 国仲さんは、平和教育だけではなく、沖縄の地域資源を「学び化」することに余念がなく、現在、修学旅行向けにさまざまなプログラムを開発している。「マリンスポーツをする前に琉大医学部でサンゴの生態系について学んでもらう。伝統文化の分野では、沖縄県立芸術大学で伝統文化について学んでもらった後に演劇を鑑賞する」という。

 「がちゆん」のプログラムは沖縄の特性を素材に、学習効果にとことんこだわっていることもあり、引率教師の反応が全国的に良いという。一方で、修学旅行を含めた沖縄観光の課題は「料理人」が足りないことだとも指摘する。沖縄には良い素材があるにもかかわらず、それをプロデュースできる人材がいない。地域資源は良いが、「飽きられてきたのではないかとも感じている」。

 「沖縄に修学旅行に来るすべての学校が『がちゆん』を使ってもらえるようになることだ」と国仲さんの目標は高い。