高校教科書不正、規範意識の徹底が不可欠だ


 教科書会社の大修館書店が、同社の英語教科書を採用した高校に自社の英語教材を無料提供していた。

 業界の自主ルールに違反する行為であり、規範意識の低さを示すものだ。

 英語教材を無料提供

 無料提供された教材は、主に1、2年の授業で使う英語教科書に準拠した2種類の単語や文法の練習ドリルだ。今年は30都道府県の91校に計1万8241冊、2013~15年にも17~33都道府県で計約3万9000冊を配っていた。

 教科書会社の業界団体である「教科書協会」は、自主ルールで採択関係者への物品などの提供を禁じている。大修館書店の行為はこのルールに明らかに違反している。

 教科書会社をめぐっては昨年、検定中の教科書を小中学校の教員らに閲覧させて謝礼を支払っていた問題が発覚した。大修館書店はこの問題に関わっていなかったため、同社の鈴木一行社長が今年2月、教科書協会の会長に就任。教科書協会は4月、再発防止のために新たな自主ルール案をまとめた。

 ところが、この頃にも同社は無料提供を行っていたというからあきれるばかりだ。ちょうど教科書採択に向けた営業活動が始まる時期でもあり、いくら鈴木社長が「営業社員の判断で、組織的ではない」と弁明しても、会社ぐるみで採択を期待してルール違反をしたのではないかと疑わざるを得ない。

 鈴木社長は教科書協会の会長を辞任したほか、問題の処理を終えた段階で社長を含む同社役員の処分を検討する考えを示した。しかし、これで済むわけではないだろう。

 今回の件では、教科書業界の規範意識の低さが改めて浮き彫りになったと言える。このままでは、業界と採択の公正性への信頼は損なわれるばかりだ。

 新たな自主ルールでは、悪質な違反は教科書協会のホームページで公表するなどの制裁措置を定めた。また検定中の教科書に関しては、閲覧できる範囲を文部科学省に届けた編集・執筆者と検定前から制作に関与した編集協力者、都道府県教育委員会に届けた教師用指導書の編集・執筆者に限定。法令・規範違反の通報窓口も設置する。

 だが教科書業界の規範意識が高まらなければ、新ルールも形骸化しよう。特に高校教科書は、学校ごとに選定され、教委が追認する。このため、選ぶ際には一部教員の意見が影響しやすいほか、教員と業者との癒着も生じやすい。

 大阪府立高校の教員が教科書会社から検定中の教科書を見せられ、謝礼を受け取っていたことも明らかになった。業界はもちろん、教員の側も意識改革を進める必要がある。

 ウミを出し切るべきだ

 大修館書店の問題を受け、文科省は今年度の高校教科書の採択時期を例年より最大1カ月半遅らせて10月末とすることを決めた。

 高校教科書を発行する他の38社にも同様の事案がなかったか調査を求めており、調査結果を踏まえて採択できるようにする。教科書業界はウミを出し切るべきだ。