教科書謝礼問題、教員にあるまじき行為だ


 教科書会社が検定中の教科書を校長らに見せて意見を聞き、謝礼を支払っていた問題は、採択の公正性に疑念を抱かせた。

 採択への影響大きい

 文部科学省の調査によると、検定中の教科書を閲覧した公立学校の教員延べ1009人が採択に携わり、うち818人に金品が提供されていた。閲覧させた社の教科書を新規に採択したケースは99件あったという。

 文科省は「不正行為は確認されず、採択に影響はなかった」と結論付けた。全都道府県の教育委員会も、選定時に特定の教科書を推す発言はなかったとして「選択は公正に行われた」と文科省に報告している。

 しかし、これは疑わしいと言わざるを得ない。そもそも、外部の介入を排するために検定中の教科書を見せることは文科省の規則で禁じられている。金品提供も教科書の業界団体の自主ルールで禁止している。

 このことを教科書会社は知らなかったわけではあるまい。自社の教科書を選んでもらうために便宜を図ったと受け取られても仕方がないだろう。

 もちろん、金品を受け取った教員の側も問題だ。教員の中には「調査員」として教科書選びに関わる人もいる。調査員は各教科書を読み比べ、その特徴を教委に報告する役目を持つが、採択への影響力は大きい。

 教科書選びは、子供たちへの愛情と配慮に基づいて行われるべきものだ。それが仮に金品で左右されることがあったとすれば、子供と保護者への背信行為だと言えよう。採択への影響がなかったとしても、公正性を疑われるような行為が許されないのは当然だ。

 今回の調査は、1月に各社が報告した5000人超の名簿を各教委に送り、教委が個々に聞き取って結果をまとめた。だが調査期間が短かったことに加え、調査対象者の中にはすでに退職して調査に非協力的であったり、「記憶が曖昧だ」としてきちんと説明できなかったりするケースもあった。

 教委という「身内」による調査の限界もあろうが、子供の手本となるべき教員の反省が十分でないのは残念だ。教員にあるまじき行為だとの自覚はあるのだろうか。教科書採択をめぐっては、2003年に三重県尾鷲市の教育長らが逮捕される贈収賄事件が起きた。今回の問題を軽く扱えば、こうした重大事件に発展しかねない。

 文科省は、教員らが教科書会社と適切な関係を維持するよう求める通知を出した。教科書の業界団体も、悪質な行為を繰り返した企業は除名するなど自主ルールの見直しを進めている。再発防止を徹底し、採択の信頼を回復しなければならない。

 教委は透明性高めよ

 文科省によると、15年度の中学校教科書の採択結果を公表した市町村教委は全体の約64%、採択理由の公表が約45%、選定委員会の議事録の公表は18%となっている。

 教科書採択に関する情報は、地域住民にとって非常に重要なものだ。結果はもちろん、理由についても説明責任を果たすのは当然だ。教委は積極的に情報を公開し、採択の透明性を高める必要がある。