「生きる力」育むのに道徳の教科化が不可欠だ


 中央教育審議会が小中学校で道徳を正式な教科に格上げするよう答申したことで、検定教科書を使った道徳教育が平成30年度から始まる見通しとなった。学校での道徳教育が本格化に向かっているのを契機に、学校と家庭・地域の連携を強めて子供の心を育てる機運を高めたい。

 検定教科書導入を答申

 道徳の教科化については、終戦直後からたびたび論議されてきた。しかし、そのたびに左翼勢力が「戦前の修身の復活」などと猛反対し、結局、昭和33年に小中学校で「道徳の時間」を週1時間設け、今日に至っている。それさえも、運動会をはじめとした行事の練習や教科の補習に振り替えられ、形骸化しているのが実情である。

 中教審の答申は、道徳教育は子供の「生きる力」を育むために重要で、それには検定教科書を導入し、正式な教科にする必要があると明記した。

 かつてのゆとり教育でも生きる力は盛んに言われた。だが、子供中心主義から子供の自主性ばかりが強調された結果、規範意識が育たず、逆に生きる力を損なってしまった経緯がある。

 小学校で把握されたいじめが昨年度11万件を超えて過去最多となり、暴力行為も深刻化しているが、これらは道徳教育の形骸化や子供中心主義の教育と深く関わっている。

 日教組は「検定教科書は、規定された価値観や規範意識の押し付けにつながることが危惧される」とし、また共産党系の全教も「特定の価値観を教え込むことになるのは明らか」として反対している。しかし、この批判はこじつけにすぎない。

 道徳の時間に「平和教育」と称し、偏向した価値観の押し付けを行っているのは、左派教員組合の教師たちである。こうした偏向教育を防ぐには、検定を通過した正式な教科書を使った教育が不可欠だ。これは、規範意識や他者への思いやりなどについて子供自らが考えることと決して矛盾するものではない。

 ただ、課題もある。一つは教師の指導力だ。社会規範を教えるだけでなく心を捉える授業を行い、子供の良心と他者を思いやる心を育てるには、教師養成や研修の充実が重要である。

 もう一つは、道徳教育に対する家庭や地域社会の無関心だ。現在の学齢期にある子供の保護者は、日教組教育や道徳の形骸化の中で学校時代を過ごしている。たとえ道徳教育が本格化しても、保護者が社会規範やモラルについて全く語らない上に、周囲の大人の行動がそれに反するようなものでは空回りしてしまうだろう。学校と家庭・地域とが連携して取り組むことがカギとなる。

 教材持ち帰りの指導を

 今年度中に新しい指導要領が告示され、教科書作成の指針となる解説書や検定基準が設けられるため、検定教科書の使用は最短でも30年度になる。この間の道徳教育は現在配布されている教材「私たちの道徳」を活用することでかなり改善させることができるはずだ。文部科学省はこの教材を使って家庭でも親子で話し合ってほしいと呼びかけている。子供が教材を家庭に持ち帰り保護者に見せるよう、学校側は徹底指導してほしい。

(10月29日付社説)