OISTの研究でサンゴ白化現象の歯止めに光明
3色の種類があることで知られるサンゴ「ウスエダミドリイシ」は、色によって高温への耐性が違うことが、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究で明らかになった。さらに、持続可能なサンゴの細胞株を樹立させることに成功した。こうした研究によってサンゴの白化に歯止めをかけることができると関係者は期待している。(沖縄支局・豊田 剛)
持続可能な細胞株の樹立に成功、10カ月以上にわたり増殖
環境省はこのほど、沖縄県石垣島と西表島の間に広がる国内最大のサンゴ礁「石西礁湖(せきせいしょうこ)」について調査結果を発表した。その中で「白化が急加速した2017年に比べて2%しか伸びておらず、回復にはほど遠い状況だ」と指摘する。その一方で「大規模な白化現象は悪化傾向から脱し、回復傾向にある。全体としては厳しい状況が続いている」としている。
ウスエダミドリイシは琉球列島の礁斜面で見られる、普通種。円形のコリンボース型(散房花型)群体で、礁斜面の浅所で普通に見られる。昼間でも触手を伸ばす姿が観察できる。共肉の色彩は緑褐色、紫色、クリーム色と変化に富んでいる。海の状況変化に特に敏感で、水温の急上昇や海水の酸性化によって白化することが分かっている。
こうした中、OISTのサンゴ研究に注目が集まっている。OISTと高知大学の研究チームはこのほど、持続可能なサンゴの細胞株が樹立されたことを確認した。4月26日、学術誌「Marine Biotechnology」上で研究成果を公表した。研究では、造礁サンゴの「ウスエダミドリイシ」の細胞をシャーレ(研究で使う小形のふた付きガラス皿)で育てる中、サンゴ幼生の細胞を分離して作られた細胞株が八つの培養細胞型に成長。そのうち七つが、10カ月以上にわたって増殖し続けていると報告した。
知見から、白化現象の解明やサンゴの養殖能力の向上につながる可能性もあるという。マリンゲノミックスユニット研究チームの佐藤矩行(のりゆき)教授は、「これまで、海洋生物の中でも特にサンゴの安定した細胞株を樹立することは、非常に困難だった」とした上で、「細胞株を用いてサンゴの基本的な生態を解明することで、気候変動からサンゴを守ることができるようになる」と意義を語っている。
色と耐性に関連あり、働き知ることは保全の観点で重要
マリンゲノミックスユニット研究チームによると、2017年夏、黄緑のサンゴはほとんど白化しなかったのに対し、茶のサンゴは約50%が白化した。紫のサンゴは黄緑と茶の中間の割合で白化現象が起きた。
研究チームが色の違いを生むタンパク質の発現量に注目して調べたところ、耐性の高い黄緑のサンゴは5種類ある緑色蛍光タンパク質のうち、2種類のタンパク質が夏場に多く発現することが分かった。緑色タンパク質が共生藻類を保護し、白化が抑えられたと考えられる。
黄緑、紫、茶の順で耐性が高く、白化もしにくい。OISTのマリンゲノミックスユニット研究チームの佐藤教授の論文が2月22日付の科学雑誌「G3:Genes Genomes Genetics」に研究成果として公開されている。
研究チームは当初、サンゴと共生する褐虫藻の種類で耐性に違いがあると考えたが、どの色のサンゴも共生する褐虫藻が非常に似ていることから、大きな違いはなかった。3色のサンゴを20年間飼育してきた私設水族館「さんご畑」を運営する有限会社海の種(読谷村)が研究に大きく貢献した。
佐藤教授は「今のところ、サンゴ礁の現状に対して私たちができることはあまり多くないが、このような基礎的な知識を集め、サンゴの働きを理解することは、長期的な保全の観点で非常に重要」とコメントした。







