高校教科書検定 新科目指導に向け授業改善を
「詰め込み型」教育の批判を受けて「ゆとり」に、そして「脱ゆとり」(詰め込み型)へと大きく揺れ動いてきた学習指導要領。学力とは何か、100年先を慮(おもんぱか)って学習指導要領は決めなければならない。予知できない急激な変化を遂げる社会に対応できる生徒を育成する目的で基本的な知識を学んでもらい、自ら課題を設けて解決策を探り、結果を出せる力を育んでいこうとしている。
「公共」「情報Ⅰ」を新設
「主体的・対話的で深い学び」を推進してきた文部科学省は、2022年度から高校1年生が使う、新しい学習指導要領に即した教科書検定の結果を公表した。理科系の学習コースを選択した生徒が日本史や世界史、地理、倫理社会などを学ばないまま高校を卒業するケースが増えている。この“弊害”をなくすため、日本と世界の近代史を融合させた「歴史総合」や「18歳選挙権」導入を受けて主権者教育を行う「公共」、プログラミングやネットワークを学ぶ「情報Ⅰ」が登場した。
現代の地理的諸課題を学ぶため、新しく登場した「地理総合」は「公共」とともに、すべての教科書で北方領土、竹島(島根県)、尖閣諸島(沖縄県)を「固有の領土」と記述。尖閣問題については「領土問題は存在しない」と明記された。こうしたスタンスが徹底されてきたのは喜ばしいことだ。また、昨年の検定で不合格になり再申請していた「新しい歴史教科書をつくる会」による自由社の中学歴史の教科書が合格した。
生徒に関心を持たせるため、授業の裾野を広げることに異論は無い。だが、人間は興味のないことに耳を傾けることは難しい。生徒にいかに関心を持たせるか、教員の手腕がより一層問われることになる。
教科の間口を広げ過ぎると、勉強の基礎である「読む」「書く」ということが疎(おろそ)かにならないだろうか。読むことによって知識を得、書くことで頭の中を整理し、定着させることができる。また、生徒に勉強の目的を明確に持たせることも必要だ。
以前から言われていたことだが、大学入試の改革が無ければ高校教育の改革はあり得ない。大学入学共通テストでは知識の量を問う以上に、記述、思考、表現の力を問う出題傾向に切り替わりつつある。25年には現行の6教科30科目から7教科21科目に再編するという。教育改革の大きな起点にしてほしい。
ただ“過労死レベル”の就業体制の中で奮闘している教員にさらなる資質向上を求めるのは酷である。現場の教員たちは、労働時間の規定概念がない空気の中、クラブ活動の指導や事務仕事(校務、会計、報告書の提出、アンケートのまとめ、行事の手配・準備、教科・学年などの職員会議)があまりにも多く、教科指導の質を下げないために身を削っている。
本分に集中できる環境を
教員免許がなくてもできる部活動の指導は外部指導員、健康管理や精神衛生の問題は学校医やスクールカウンセラーらに任せることも時には必要である。教員の本分である「教える」ことに集中できる環境整備も教育改革には不可欠である。