コロナ禍を人工知能と共に生きる若宮正子さん
1935年(昭和10年)生まれの85歳。若宮正子さんは“世界最高齢”の現役プログラマーだ。スマートフォンのゲームアプリ開発以外にも、服のデザインから地域活性化まで全国的に活躍しており、その姿は高齢者を励まし続けている。若宮さんは、先日、秋田市にぎわい交流館AU(あう)で行われた「令和2年度秋田市エイジフレンドリーシティカレッジ」(主催・秋田市)で講演した。(伊藤志郎)
85歳のプログラマー、米国アップル社の世界開発者会議にも特別招待
58歳からパソコンを始めた若宮さん。2017年2月、81歳の時にゲームアプリ「Hinadan」を公開。同年6月に米国アップル社の世界開発者会議に特別招待され、一躍注目を集めた。NPO法人ブロードバンドスクール協会理事、メロウ倶楽部副会長、熱中小学校教諭、エクセルアートの創始者と多くの肩書を持つ。この日も、自身がエクセルアートでデザインした服を着て、舞台を歩き回り講演する姿はとても85歳とは思えない。
メロウ倶楽部とは、21年続くインターネット上の円熟世代による情報交流の場。20年以上前からすべての活動をオンライン上で展開。コロナでも何ら倶楽部の運営に支障はなし。全盲の方も音声読み上げがあるから入会可能だ。
シニアらしい活動、例えば植物や俳句、時代の記録も行う。プログラミングの部屋やオンライン勉強会もあり、ズームミーティングには100人以上集まる。「過去の地位は捨て、ハンドルネーム(インターネット上で使う名前)で呼び合う。上半身だけを使って踊りをしたこともある。年寄りだって、やればできると思いました」と参加者の声も。
ゲーム開発やエクセルによる服のデザイン、地域おこしも手がける
「熱中小学校」も大きな取り組みだ。地方創生と大人の再教育を目指し「もう一度、7歳の目で世界を…」をテーマに畜産、水産、情報、学芸会、映画製作、観光開発、お祭りなどさまざまなジャンルを学ぶ。過疎地での村おこしもある。
「一番は楽しいこと。多様性が大切で、よそ者、ばか者、変わり者がいないとしぼんでしまう」「観光客が来た時、自分が感動して広げることが必要です」と若宮さん。
若宮さんは、マイクロソフトの表計算ソフト・エクセルでセルを塗ったり罫線を工夫し「エクセルアート」を生み出した。最初は、うちわやくす玉を作ったが、やがて日本古来の文様にヒントを得て、手提げ袋に始まり、印刷した布地で服まで作り上げた。
昨年11月にはスマートフォンのアプリケーション「Nanakusa」を公開。本当の七草とうそっこの七草を振り分けるゲームだ。「日本にはおいしい野菜がいっぱいある。野菜に親しんで食べてほしい」との願いから作った。「今はプログラミングがやさしくなってきた。あらかじめ部品のような形で用意されている」と若宮さん。
コロナで人間関係も大きく変化、「便利なデジタル技術」で広がる夢
「創造は、ITの世界だけとは限らない」と若宮さんは言う。ジーンズで袋を作る、子供が消しゴムにドローンをくっつける、限られた食材で3日間、違う食事を作るのも一例だ。世界はコロナ大流行の真っただ中にある。
「『皆さん、ご一緒に』が日本では当たり前だったが、コロナをきっかけに新常識が人間関係を大きく変えつつある」と言う。また、「会社を辞めた人は、人間関係がうまくいかなかった人が多い。コロナにより3密がなくなり、移動不自由者のハンディがなくなった。これからはハッシュタグ型人間がいい。パスタ作りがうまい、釣りがうまい、踊りや歌がうまい――そういう人たちが集まって老人ホームに慰問に行くこともできる」と語る。
「デジタル技術は便利。洪水の避難情報を得たり、孫の運動会の同時中継もしてもらえる。将来、善意をデータベース化すれば、あさって朝8時半に駅まで送ってもらうこともできるかもしれない」若宮さんの夢は果てしなく広がる。
昨年、若宮さんは政府のデジタル改革関連法案ワーキンググループの構成員に選ばれた。「誰一人取り残さないデジタル化」を目指し、高齢者・障害者の代表として全力を尽くすと抱負を語った。