教員の働き方改革、授業に専念できる体制を
“過労死レベル”と言われ、長過ぎる公立学校の教員の勤務時間を繁忙期とそうでない時期に分け、年単位で調整する「変形労働時間制」の導入を柱とする改正教職員給与特別措置法が参院本会議で可決、成立した。各自治体の判断で2021年度から「休日のまとめ取り」が可能になる。原則「月45時間、年360時間」とする残業上限ガイドラインを、文部科学相の定める「指針」に格上げし、法的拘束力を持たせることも盛り込んでいる。
国際的にも長い労働時間
だが、残業時間を短くすれば済むものではない。小テストの採点、授業の準備など自宅での仕事が増えるだけだ。根本的に業務内容を見直す必要がある。
教員の仕事時間が長くなる大きな原因は、担任がクラスでの出来事全てに責任を持つ体制になっているという点にある。教育委員会や学年主任、教科主任への各種報告書を作成し、雑多な諸業務に携わるほか、何がしかの部活動の顧問になることが暗黙のルールになっている。
給食費は口座振替に、集金や督促は各地方自治体に、登下校の見守りは地域のボランティアや有志、保護者に、子供たちの健康管理は養護教員、精神状態の相談はスクールカウンセラーに、生活困難者の問題や諸制度の利用などはスクールソーシャルワーカーに、いじめや体罰、パワハラなど法的な問題が絡む場合はスクールロイヤーに、というように「業務分担」を行わなければやっていけない。
公立学校の教員には、残業代が出ない代わりに、給与の4%の「教職調整額」が一律に支給されている。この仕組みが教員の長時間労働の温床になっているという批判も多い。
経済協力開発機構(OECD)が昨年実施した国際教員指導環境調査で、日本の小中学校教員の労働時間は加盟国中で最も長く、小学校で週54時間、中学校で56時間だった。中学校はOECD平均の1・5倍に当たるという。諸業務や部活動の顧問などで時間が取られ、教員の本分たる授業の準備、児童や生徒の学力向上が疎(おろそ)かになってしまうことを危惧する。
東京都千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長は、宿題や担任制を廃止し、中間・期末テストではなく単元ごとに小テストを実施。職員会議や報告書の作成も極力減らすという思い切った改革を行っている。生徒には「分かる喜び」、先生には「分かってもらう喜び」を持ってほしいという意図からだ。担任制廃止は、放任主義ではなく、生徒が主体的に取り組む姿勢を持たせる意図があり、学校全体で生徒に責任を持つことだという。
地域や学校によって事情が異なるので一概にこれで全て解決とはならないだろうが、負担軽減策の一つである。空いた時間で生徒と向き合って授業の準備をしっかりとやり、教員としての技術研鑽(けんさん)の時間を持つことも大切だ。
自宅の残業時間の調査も
文科省は22年度をめどに教員の勤務実態状況調査を実施し、結果を踏まえさらなる法制度の見直しを行う方針だ。学校での業務時間だけでなく、自宅での残業時間も調べる必要がある。