台湾人球児で沖縄尚学2年の張博瀚さんが優勝の快挙

第29回九州地区高等学校英語スピーチコンテストで

 第29回九州地区高等学校英語スピーチコンテスト(九州地区英語教育研究団体連合会主催)が11月2日、福岡県で開催され、沖縄尚学高校(沖縄県那覇市)2年の張博瀚(はくかん)さんが優勝した。台湾人でかつ、野球部の体育系コースの生徒が優勝するのは前例がない。居心地の良い環境から抜け出そうというメッセージは多くの人々の共感を呼んだ。(沖縄支局・豊田 剛)

「挑戦の先に成長と成功がある」、甲子園ベンチ入り逃し反骨精神芽生える

 沖縄尚学高校は、地球的課題の理解と解決を目指すグローバル教育に力を入れており、英語教育においては沖縄県内でも定評がある。同校はこれまで同スピーチコンテストのバイリンガル部門で4人の優勝者を輩出している。張さんの場合はこれまでと事情が違う。継続して6カ月以上英語圏に居住したことがないノンバイリンガル(非英語圏)の部門で優勝した。

台湾人球児で沖縄尚学2年の張博瀚さんが優勝の快挙

英語スピーチコンテスト優勝を家族に祝福された張博瀚さん(右)=福岡市の福岡県立博多青松高等学校(沖縄尚学高校提供)

 張さんは「挑戦の先にあるもの」(英題:Get Out of your Comfort Zone)という演題で、自身の経験をもとに留学について語った。

 沖縄尚学は今年夏の全国高校野球選手権大会に5年ぶり8度目の出場を果たした。部員には張さんのほか、同じく台湾出身の崔哲●(てつい/●=王に韋)さんがいる。2人は台北郊外の新竹市出身で、小学生の頃から同じ野球チームに所属した。台湾の日本統治時代、甲子園に出場した嘉義農林学校をテーマにした映画「KANO」を見て、甲子園への憧れが高まったという。

 崔さんから日本留学を誘われ、「野球が強い高校に行きたかったため、沖縄尚学を選んだ」と話す。台湾は秋に新学期が始まるため、2人は中学卒業後に半年間、県内の日本語学校に通った後、昨春入学した。

 野球部の寮で生活する場合、勉強と寝食以外の自由時間は制限される。こうした中でも、昼休みや就寝前の少しの時間を利用して英語スピーチを特訓したという張さん。「英語は小さい頃から勉強していて、親しみがあった」ため、校内のスピーチコンテストに応募。見事、学校代表に選ばれた。

 昼休み、野球部員のほとんどは休憩している中、張さんは国際コース担当教師から特訓を受けた。夜は就寝直前、鏡の前で発声練習をした。

 張さんは、「以前は恥ずかしがり屋で積極的に話をするタイプではなかった」と振り返る。これを変えたのが野球部での経験だった。「甲子園でベンチ入りできなかったのは正直悔しかった」が、「英語では他の誰にも負けたくなかった」という反骨精神が彼を強くした。

 スピーチで最も訴えたかった部分は、「自分にとって居心地の良い場所を抜け出して挑戦する先に、成長と成功がある」ということ。楽な道を捨てて挑戦することの大切さを呼び掛けた。張さんにとって居心地の良い場所とは台湾を指すが、こうした考えはすべての人に当てはまるものとして広い共感を得た。

 4人の審査員のうち、福岡教育大学の中島亨教授は「実際の体験をもとにスピーチした点が高い評価につながった。甲子園に出場したチーム(野球部)に所属していたことも含め、英語弁論大会で全国出場も決め、文武両道を究めている素晴らしい人材だ」とコメントした。

 張さんは、来年2月9日に開催される第13回全国高等学校英語スピーチコンテストに、九州地区代表として出場する。スピーチの目標はあくまでも優勝だ。

 そして、3年生となる来年の夏はレギュラーメンバーとして甲子園でプレーすることを目標に掲げる。将来の夢は「日本かアメリカの大学に留学し、スポーツの分野で世界に貢献すること」と力強く話した。