民主議員に甘いメディア

米コラムニスト マーク・ティーセン

スタッフに中国人スパイ発覚
元情報高官ら問題指摘

マーク・ティーセン

 下院か上院で共和党の情報委員長のスタッフの中にロシアのスパイがいたと考えてみてほしい。政治的な混乱が生じないだろうか。ファインスタイン上院議員(民主、カリフォルニア州)のスタッフの中に中国人スパイがいて、20年以上にわたってスタッフとして働いていたことが明らかになった。職員名簿に「事務役員」として載り、ファインスタイン氏がサンフランシスコにいる時は運転手も務めていた。その間ずっと、中国のサンフランシスコ領事館を通じて中国の国家安全省に報告してきた。大手メディアの反応はどうだっただろう。軽く触れた程度だ。

 ファインスタイン氏は、スパイの侵入を認めたが、その重要性は否定した。声明で「5年前、FBI(連邦捜査局)から、私のカリフォルニアのスタッフの事務職員が、中国政府に情報を提供するよう求められている可能性があり、懸念していると知らされた」と明らかにした。つまり、ファインスタイン氏が情報委員長を務めていた時に起きたということだ。しかし、「このスタッフは、機密情報、重要な情報、議会に関する情報には接触しておらず」、直ちに解雇したと主張した。要するに、政策には関わらず、極秘情報は入手しておらず、直ちに解雇したから、大した問題ではないということだ。

 ◇「大変重大」と主張

ファインスタイン上院議員

7月10日、米最高裁での記者会見に向かうファインスタイン上院議員(UPI)

 だが、これは大きな問題だ。元情報高官、元司法当局者らに、この問題がどれほど重大かを質問してみた。司法省の元高官は「大変重大」だと主張、「運転手をしていたことだけをとってみてもそれは分かる。マフィアファミリーのボスの運転手は、信頼されるメンバーのうちの一人だ。車の中での話すべてを聞くことができるからだ」と指摘した。

 中央情報局(CIA)の元高官は、ファインスタン氏のような重要人物の運転手をスパイとして取り込めたとして、どのような対応をさせるのかについて説明してくれた。「運転手に、車内での会話、通話すべてを携帯電話に録音させる。会議、交流イベント、食事などに行き、車内に携帯、アイパッド、ノートパソコンを残していった場合は、機器の中のすべてをダウンロードさせる。20年、運転手をすれば、オフィスや自宅に入ることもあるだろう。そのようなチャンスがあれば、オフィスと自宅に録音機器を設置させる。報告を受けて入手したすべてから何が得られるかによるが、その情報を生かして、ファインスタイン氏に近く、何らかの弱点を知る人物を標的にする」

 ◇中国がサイバー攻撃

 この元高官は「要するに、絶好のチャンスを手に入れたということになる」と語った。

 何年もの間、車の中で重要なことを一度も話さなかったとは考えにくい。ファインスタン氏が非常に慎重で、運転手がいる時や、運転手が操作できる機器がある所で機密情報について一切話をしなかったと仮定してみる。元情報高官の一人は、そのような場合でも「敵対する相手なら、このような地位に就いている人物の雰囲気、態度、物腰から、極秘情報といえるもの以上に重要なものを手に入れることもあり得る」と指摘。「機密扱いになっていない電子メールなどもその一つだ」と語った。

 ロシアからの脅威に集中するのは理解できる。しかし、FBIのレイ長官によると、「中国は、スパイ防止活動という視点から見ると、米国にとって、広範囲に行きわたり、最大の脅威となる困難な課題だ」。2015年に人事管理局(OPM)のデータベースに侵入したのは中国だった。行政機関職員の大量の身元調査文書SF86が盗み出された。米国史上最悪のサイバー攻撃だった。中国政府は、FBI工作員と国務省職員らをスパイとして取り込むことに成功し、米国人内通者からの情報を生かして、中国政府内のCIA要員が何十人も殺された。そして今、中国は、上院情報委員長のすぐ近くで働くスタッフという非常に価値のある人物を取り込んだ。

 ファインスタン氏は、どのような経緯で中国のスパイの侵入を許したかを細部まで国民に説明する義務がある。メディアは、ロシアと共和党が関与した事件があれば、熱心に取り組む。ファインスタン氏のセキュリティー違反にも、真剣に取り組むべきだ。

(8月10日)