露の脅威に目覚めた民主
米コラムニスト マーク・ティーセン
レーガン氏の反共政策非難
軍備増強やSDIに反対
ロシアのプーチン大統領は、2016年の米大統領選への干渉で、旧ソ連の残忍な体制下でも成し遂げられなかったことを達成した。民主党を対露強硬派へと変えた。
ソ連の崩壊から数カ月後、レーガン大統領は、1992年共和党全国大会で演説し、「別の党大会で、『われわれは冷戦に勝利した』というスピーチを何度も聞いた。不思議な気持ちになった。この『われわれ』とは誰のことなのだろう」と指摘した。
この疑問には一理ある。現在、民主党は、ロシアが米国の民主主義の脅威になっていると強い懸念を抱いている。
しかし、ソ連が米国の民主主義にとって現実的な脅威だった冷戦当時、民主党は、それほど懸念してはいなかった。ほとんどの民主党員らは、ソ連帝国の崩壊につながったレーガン大統領の政策に反対した。レーガン氏の軍備増強と戦略防衛構想(SDI)に反対した。SDIを、エドワード・ケネディ上院議員は「スターウォーズ」と批判し、ジョン・ケリー上院議員は「幻想の上に築いた夢」と呼んだ。
ソ連が支持した核凍結を支持し、レーガン氏の西欧への中距離核ミサイルの配備に反対した。ソ連の傀儡(かいらい)政権の転覆を狙う自由戦士を武装させ、共産武装勢力と戦う親米政権を支援するレーガン政権の取り組みを批判した。
◇反共主義を軽蔑
民主党はレーガン氏の政策に反対しただけでなく、その明確な反共産主義の主張にも軽蔑の目を向けた。
レーガン氏がソ連に、ベルリンの壁の「取り壊し」を求めると、民主党のライト下院議長は、「(レーガン氏は)2国間関係に劇的な突破口を開く機会を台無しにした」として、「全く見損なった」と訴えた。レーガン氏がソ連を「悪の帝国」と非難し、「歴史のごみ箱」に捨てると約束した時、ケネディ氏ら民主党員は、「人を惑わす赤の恐怖戦術」と非難した。
そうでない民主党員も確かにいた。伝説の民主党上院議員、ヘンリー・スクープ・ジャクソン氏は、強烈な反共主義者だった。ジャクソン氏のような人々は、「スクープ・ジャクソン・デモクラッツ」と呼ばれた。ジャクソン氏のような強硬な手法を支持しない他のほとんどの民主党員と区別するためだ。
長く続いてきた融和策がそう簡単に変わることはない。そのため、冷戦が終結しても、民主党員らは、ロシアへのソフト路線を続けた。ブッシュ大統領(子)の弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約離脱に対して民主党は、プーチン氏よりも強く反対した。オバマ大統領が、ロシアをなだめるためにミサイル防衛合意を放棄し、ポーランドとチェコを無情に裏切った時、民主党から反対の声はほとんど聞かれなかった。ミット・ロムニー氏がロシアを「地政学上の最大の敵」と呼ぶと、民主党員らは容赦なくあざ笑った。オバマ氏はロムニー氏に「1980年代の人々が、当時の外交政策に戻そうと呼び掛けている」と言った。バイデン副大統領は、「(ロムニー氏は)冷戦はまだ続いていると考えているようだ」と述べた。ロシアを警戒する共和党を民主党は笑いものにした。
しかし、冷戦終結から四半世紀がたつ今になって民主党は、ようやく、ロシアは脅威だと判断した。
◇平和共存を訴え
ソ連は何十年もの間、世界中に独裁政治の種をまき、無数の人々を収容所に送り、核で殲滅(せんめつ)すると米国を脅してきたが、その一方で民主党は、デタント(緊張緩和)と平和的共存を訴えていた。プーチン氏が依然として独裁主義的支配を強め、国内の民主勢力を弱体化させ、周辺国に侵攻している一方で、民主党は関係の「リセット」を呼び掛けていた。ロシアがクリントン大統領の選対本部長だったジョン・ポデスタ氏の個人情報を流出させてようやく民主党は怒った。
しかし、共和党は、この民主党の偽善をあざ笑う前に自ら襟を正し、ロシアを擁護し、ロシアの変化に期待した民主党の轍を踏まないようにすべきだ。民主党が、その内にあるレーガン的な部分を引き出そうとしているからといって、右派が、その内にあるケネディ的な部分を引き出し始める理由にはならない。保守派は、民主党がようやく反露感情を持つようになったことを深刻にとらえる必要はない。深刻にとらえるべきなのはロシアだ。
民主党がこの新たな反露感情をトランプ大統領潰しに利用しないようにすべきだ。ロシアが脅威なのは、2016年の選挙に干渉したからばかりではない。プーチン氏に批判的な人物を化学兵器で殺害し、民間機を撃墜し、タリバンに武器を提供し、イランを支援し、条約を守らず、核ミサイルを北大西洋条約機構(NATO)同盟国に向け、隣国の領土を併合しているからだ。トランプ氏が去っても、その脅威はなくならない。問題は、民主党がロシアに対して強硬姿勢を維持できるかどうかにある。
(7月25日)






