トランプ氏、保守派判事指名へ

米コラムニスト マーク・ティーセン

ケネディ氏が引退表明
最高裁、保守派が勢力拡大

マーク・ティーセン

 最高裁を変えてほしくてトランプ大統領に投票した保守派に、おめでとうと言いたい。願いはかなった。

 大統領選でヒラリー・クリントン氏が勝っていたら、保守派の故スカリア判事の後継に、リベラル派の判事が据えられ、最高裁は今後1世代にわたって左派が多数派となっていた。トランプ氏が勝ったため、ニール・ゴーサッチ氏がスカリア氏の後任として承認され、5対4で保守派が多数派となった。

 保守派が多数派となったことで今週、保守派に有利な二つの重大な判決が下された。全米家族生活擁護協会対ベセラ裁判で最高裁は、カリフォルニア州は、危機妊娠センター(CPC)に、その良心に反して、患者に中絶を行う方法を通知することを強いることはできないとの判断を示した。ジェイナス対米国州郡市町村職員連盟(AFSCME)裁判では、公務員は、根本的に受け入れられない公共政策を支援するための組合費の支払いを強制されないとの判決を下した。どちらの判決も、ぎりぎりの5対4だが、憲法修正第1条に定めた全米国人の自由は強化された。

 トランプ氏は、スカリア氏の死去で現状を維持できた。しかし、アンソニー・ケネディ判事の引退表明で、それ以上のことができるチャンスを手にした。保守の多数派を維持できるだけでなく、保守勢力を拡大できる。トランプ氏が、中間派として重要な課題でリベラル派に加担することもよくあったケネディ氏を、スカリア、ゴーサッチ両氏の時のように、信頼できる保守派に変えれば、今後1世代にわたってその状態が続く可能性がある。

 ◇単純過半数で承認

 そのためにトランプ氏は、共和党の前任者による前例を打ち破る必要がある。過去30年間、共和党の大統領は、7人の判事を指名した。だが、その一部は保守派の期待を裏切るものだった。レーガン大統領は、サンドラ・デイ・オコナー、スカリア、ケネディの3人を指名したが、一貫して保守派だったのはスカリア氏だけだった。ブッシュ大統領(父)は、強固な保守派、クラレンス・トマス氏を指名したが、もう一人のデービッド・スーター氏はそうではなかった。ブッシュ大統領(子)の場合は、それよりはよく、2人の保守派、サミュエル・アリート、ジョン・ロバーツ両氏を指名した。しかし、そのロバーツ氏も、司法積極主義の中で、オバマケア(医療保険制度改革)を支持した。トランプ氏が2人の信頼できる保守派判事を指名すれば、近代の共和党大統領としては最良の結果を残すことが可能になる。

 リベラル派は、判事指名の重要性をしっかり理解している。そのため、トランプ氏が誰を指名しても、これまで承認をめぐって対立が生じたように、かつてないほどの反対に遭うことになる。しかし、民主党が軽率な行動を取り、前例を壊して、オバマ政権下で連邦高裁の終身判事指名の承認のための上院規則を改正し、ゴーサッチ氏の承認手続きを妨害したおかげで、トランプ氏の指名する判事は、上院で単純過半数が取れれば承認される。上院共和党が一つになれば、トランプ氏が指名した判事が承認される。

 ◇秋には上院で表決

 一部の民主党議員らはすでに、中間選挙の年に最高裁判事を承認すべきでないと訴えている。残念なことに、オバマ氏が指名したエレーナ・ケーガン氏を上院が承認したのは、2010年8月、中間選挙の直前だった。超党派の支持が得られ、63対37で承認された。民主党はわらをもつかむ思いだ。11月の中間選挙で上院での多数派獲得を狙っており、民主党にとって非常にタイミングが悪い。共和党のマコネル上院院内総務は、承認の表決は秋に行われると発表した。10月の第1月曜日に始まる最高裁の会期からは、ケネディ氏の後任が判事を務めることになる。ジョー・マンチン、ハイディ・ハイトキャンプ、ジョン・テスター、クレア・マカスキル、ドネリー氏らのように、トランプ氏が二桁差で勝利した州で再選を目指す民主党の上院議員は哀れだ。政治生命を守れるかどうかは、中道派とみられるかどうかに懸かっている。今後数カ月間、選挙戦を戦う一方で、トランプ氏指名の最高裁判事候補をめぐるリベラルと保守の間の大乱闘の集中砲火を受けることになる。賛成票を投じれば、支持基盤のリベラル派の反発を招き、反対票を投じれば、親トランプ派が反乱を起こす。

 これらの理由から、トランプ氏指名の判事は承認される可能性が高い。そうなればトランプ氏は、米近代史の中で特に偉大な保守派大統領の1人となる。トランプ氏は、最高裁の保守勢力を拡大しているだけでなく、かつてない速度で、若い、保守派の連邦高裁判事を指名している。今後数十年間にわたって判事を務めることになる。クリントン氏がこれらの判事指名すべてをしたとしたらどうなるだろう。生命、信教の自由、(武器の所有を認める)憲法修正第2条、小さな政府は破滅的な影響を受けていただろう。

 次期最高裁判事の選出は、トランプ氏に委ねられている。その時、16年にトランプ氏に票を投じた保守派有権者は、正しいことをしたことになる。

(6月28日)