銃犯罪の防止へ行動を
米コラムニスト ファリード・ザカリア
銃規制との間に相関関係
「頭がおかしい」は責任逃れ
「病的で、頭のおかしい男だ」-トランプ大統領は、米国内で起きた銃撃事件の犯人についてこう語った。このような言葉は、事件が起きるたびに聞いてきた。だが、これは責任を回避するためのごまかしだ。事実の歪曲(わいきょく)であり、必要な対応を取らないための言い訳にすぎない。
ラスベガス銃撃事件の容疑者が正気を失っていたことを示す証拠はない(死んだとはいえ、有名人にしたくないから、あえて容疑者の名前は出さない)。精神病の病歴は見つかっていない。そのような兆候を示す行動も伝えられていない。悪人であるか、少なくとも悪事を行ったことは確かだ。しかし、悪と狂気は違う。罪のない人の命を奪おうとすることを狂気と言うなら、殺人犯は全員が狂人だ。そうでないのなら、あの言葉は無意味で、問題の理解にはほとんど貢献しない。
実際に、すぐに精神病のせいにすることは、議論の障害になる。まず、精神障害を持つ人々への侮辱だ。精神障害があるからと言って、暴力的なわけではない。むしろ、暴力の被害者となることの方が多い。精神障害者は暴力的になればなるほど、自身を傷つける傾向が強まる。心の病の問題は、殺人よりも自殺と深く結び付いている。
◇年間3万人が死亡
第二は、容疑者は「頭がおかしい」として、すぐに精神医療の改善を求めるのは、大抵、重要な問題から注意を逸(そ)らそうとしているときだ。だが皮肉なことに、このような言い方をする政治家ほど、精神医療への予算の削減を求めていたりする。銃撃事件について話すときは常に、この問題に関する明確な事実を認めることから始めなければならない。米国の銃撃事件はいうなれば自業自得だ。米国の銃による死亡事件の発生率は、他の先進国の10倍。日本や韓国では銃で死者が出る事件はほぼゼロだが、米国ではほぼ年間3万人が死亡している。
この違いは、検討しておくべきだ。原因を突き止め、対処すべきだ。精神疾患のせいにすることが言い訳である理由はこうだ。米国の精神疾患の割合は、英国の40倍もあるわけではないが、銃による死亡率は40倍だ。米国人1人が保有する銃の数は、英国人の約15倍、米国での所有と使用に関する規制ははるかに緩い。あらゆる可能性について議論すべきなのは確かだが、相関関係は明らかだ。
米国が他の先進国と違っているのは、それだけではない。米国全体の銃による暴力をよく見れば、やはり強い相関関係があることが分かる。アラスカ州、ワイオミング州、アーカンソー州など銃の所有率が高い州は、銃関連の死亡率が高い。ニューヨーク州、ニュージャージー州、コネティカット州、ロードアイランド州など銃所有率が低い州では、銃関連の死亡率は低い。
◇規制で減る銃犯罪
社会科学の実験のようだが、次のようなデータがある。コネティカット州は1995年に、銃の購入を規制する法律を定めた。ジョンズ・ホプキンス大学の研究によると、その後10年間、同州の銃による殺人事件発生率は、この法律が成立していなかった場合の予想よりも40%低かった。一方でミズーリ州は2007年に銃購入規制を大幅に緩和した。その後5年間、銃による殺人事件の発生率は予想よりも25%高かった。
非常に複雑な問題であり、この問題の研究自体が行われないことが解決をさらに困難にしている。公衆衛生に関する研究に資金を提供している政府機関、疾病対策センター(CDC)は、銃による暴力と政策に関する研究を20年間にわたって法律によって禁止されてきた。1996年の法律に盛り込まれているこの条項は、全米ライフル協会(NRA)の支持を受け、CDCが「銃規制を推奨または推進する」可能性のある研究に資金を提供することを禁止している。2017年の米国で、不都合な結果につながる可能性のある科学的研究が事実上、禁止されているのだ。
憲法修正第2条、米国の銃文化、銃ロビーの影響力を考えると、この問題の答えを出すのは難しいことが分かる。しかし、少しずつでも変えていける部分はある。全面的な素行調査、軍のような武器の禁止(銃の連射を可能にするバンプストックの禁止は小さな第一歩だ)、家庭内暴力、薬物乱用の犯罪歴のある人物への販売の禁止だ。しかし、まずやめなければならないのは、ごまかしと言い逃れだ。銃による暴力という防止可能な異常事態が続いているにもかかわらず、依然対策が講じられていない。米国人全員が狂っているのではないかと思いたくなるほどだ。
(10月6日)