補選で共和党の分断あらわに
米コラムニスト E・J・ディオンヌ
主流派と戦うバノン氏
民主は劣勢から反攻なるか
アラバマ州で上院の共和党予備選が26日行われ、スティーブ・バノン氏が支持する候補が、トランプ大統領が支持する候補を破った。共和党が分断を強めていることが明確になった。2018年の選挙で共和党の非主流派が現職と戦うための素地が整った格好だ。
判事のロイ・ムーア氏がルーサー・ストレンジ上院議員を破ったことは、共和党の一般党員が急進化していることを示している。55%対45%でストレンジ氏を降したムーア氏は、聖書は憲法に勝ると考えている。この結果は、06年の知事選の予備選と対照的だ。ムーア氏は、当時のボブ・ライリー知事に2対1で敗れた。
ムーア氏は現在、70歳。アラバマ州の最高裁長官だった時、自身の宗教的信念に反する法に従うことを拒否したことから、2度にわたって職務停止になっている。普通ならこれでキャリアは終わる。しかしそれは、トランプ時代までの話だ。共和党系の世論調査専門家ホイット・エアーズ氏は、「トランプ氏がしたことが、ロイ・ムーア氏の世界を勢いづかせた」とみている。
ムーア対ストレンジの選挙戦で最も際立ったのは、トランプ氏とバノン氏のどちらの主張を支持するかを試す場となったことだ。民族主義的保守派の象徴であるバノン氏は先月、大統領首席戦略官を更迭されたばかりだ。
ストレンジ氏は、ワシントンの共和党幹部らの後押しを受け、トランプ氏の支持を受けた。2メートル6センチと長身で、2月から現職。自らを「ビッグ・ルーサー」と呼ぶ。トランプ氏は、支持した大男の大敗北に驚き、過去のストレンジ氏支持のツイートを削除した。
◇勢いづく右派勢力
バノン氏はこの予備選を、元上司に思い知らせる好機と捉えていた。トランプ氏は、自身の支持基盤は非常に忠実であり、どこに行っても指示に従うと思っていたようだ。バノン氏の考えは違っていたようだ。ムーア氏の出馬に全力を投入した。トランプ氏の支持者らが忠誠心を抱いているのは、非主流派の右派思想であり、大統領自身ではないことを示すためだ。
バノン氏が望んだ通りになった。民主党系の世論調査専門家アンナ・グリーンバーグ氏は「皮肉なことに、トランプ氏は別の人物を支持したが、ムーア氏を候補指名したのは、トランプ氏を大統領候補に指名した人々だ。トランプ氏は、今起きていることの一部であり、目的達成のための一つの手段にすぎない」と分析している。
バノン氏にとってはいいことだが、ムーア氏を破るために巨額の選挙資金をつぎ込んだマコネル共和党上院院内総務にとってはまずい事態だ。ストレンジ氏が敗北したその日、マコネル氏はオバマケア(医療保険制度改革法)廃止断念に追いやられた。この二つの出来事は、共和党がいかに分断されているかを示している。共和党内の右派勢力は、今後の予備選に意欲的に候補者を出すと勢いづく一方で、上院の共和党穏健派は、医療保険法案への支持を拒否し、党員としての責務を放棄した。
ムーア氏の大勝利はいずれ、民主党にとってチャンスとなるが、それは同党にとって難しい選択でもある。
◇鍵握るアラバマ州
ムーア氏はかなり変わった考え方の持ち主だ。米国の一部はシャリア(イスラム法)に支配されていると言ったこともある。2001年の同時テロが起きたのは、米国が神の「言葉と信頼」を裏切ったからだとほのめかし、ロシアのプーチン大統領については「ひょっとすると、私が思っているよりも私に似ている」と言い、同性愛は獣姦と同じだと訴えた。
民主党員は今後、あらゆる機会を捉えて、ムーア氏の数々の異様な発言ぶりをどう思うかと共和党員にただすことになる。だが民主党も、同党候補の元連邦検事ダグ・ジョーンズ氏を12月の本選へどのように支援していくかを決めなければならない。
ジョーンズ氏は、強力な対抗馬となる力を持っているが、民主党のブレーンの中には、勝算の少ない州に本格的に投入することに反対する者もいる。ジョーンズ氏への大規模なテコ入れの支持者らは、対決してみるだけの価値がある選挙だと考えている。ジョーンズ氏がアラバマ州で勝利すれば、共和党のスコット・ブラウン氏が出馬した10年のマサチューセッツ州の本選で起きたのと同じことが起きる可能性がある。つまり、自党が劣勢の州で上院議席を獲得することで、優勢な政党の中間選挙での勢いを削(そ)ぐということが起こり得る。ジョーンズ氏が勝てば、上院で多数派の共和党の議席を51に減らすことができ、民主党にとって都合がいい。
12月の選挙でどのような結果が出ようと、バノン氏は、現在の共和党の議会指導部と戦う決意だ。投票前日のムーア氏の集会でバノン氏は、マコネル氏と、ジョージ・W・ブッシュ大統領の政策顧問だったカール・ローブ氏の名前を挙げ「報いを受ける日が来る」と訴えた。
これはトランプ氏にも当てはまる。アラバマ州からのメッセージははっきりしている。トランプ氏と共和党は、コントロールできないほど強い力を解き放ってしまった。
(9月28日)