米、中国との競争を最優先

どう見る北の脅威

米戦略予算評価センター所長 トーマス・マンケン氏

北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐる米朝対立をどう見る。

トーマス・マンケン氏

 トーマス・G・マンケン氏 米ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号・博士号を取得。海軍大学教授、ブッシュ(子)政権で国防副次官補などを経て、現在、軍事問題専門の有力シンクタンク「戦略予算評価センター(CSBA)」所長兼CEO。

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、極めて明確な目標を持っている。それは権力の座にとどまることだ。彼は残忍な独裁者だが、権力を保持することに必死だ。北朝鮮の行動はそうしたレンズから見なければならない。

 これに対し、米国は正恩氏が目論(もくろ)むいかなる行動にも結果が伴うことを理解させようとしている。それ故、「すべての選択肢がテーブルの上にある」とはっきり述べている。

米国が軍事攻撃に踏み切る可能性は。

 私の見解では、軍事攻撃があるとすれば、それは北朝鮮が攻撃を仕掛けようとしてきた時だけだ。従って、軍事攻撃の可能性は高くない。米国の対処能力を北朝鮮や同盟国に示すことは大切だが、北朝鮮が攻撃してこない限り、心配する必要はない。

北朝鮮に対する米国の優先順位は低いということか。

 北朝鮮に関心が奪われることで、中国の行動主義などより重要な問題がおろそかになる恐れがある。米国の関心が北朝鮮に向くことは、実際には中国の利益になっている。米国は北朝鮮を抑止し、同盟国を安心させる必要があるが、大国との競争に焦点を当てなければならない。

 特に中国の台頭は、国際秩序や安全保障環境に最も重大な影響を及ぼす要素だ。北朝鮮に関心を持つべきではないと言うつもりはない。関心を持つべきだ。だが、優先順位を決める必要がある。最優先課題は中国、2番目はロシアだ。

 北朝鮮に対して取るべきは、体制を支える資金を遮断する経済的オプションだ。残忍な体制下で生きる北朝鮮国民を傷つけずに指導部を締め付けるのだ。

中国は北朝鮮への圧力強化に前向きか。

 中国は実際に何ができるのか、また北朝鮮に影響を与えようという意思があるのかどうか、これは大きなクエスチョンだ。

 中国と北朝鮮の関係は極めて複雑だ。中国にとって北朝鮮は米国やその同盟国との緩衝国として、米国の関心を中国からそらす存在として有益だ。また、別の共産主義国家が隣接している事実は、中国指導部の正当性を高めている。

 その一方で、北朝鮮は中国にとって厄介な存在でもある。北朝鮮は中国の言いなりにならないし、北朝鮮が崩壊して国境で混乱が起きることを中国は懸念している。

 米国の指導者たちは、中国が北朝鮮に対して何かする能力と意志があると過大評価している。中国が何かしてくれるという米国の願望を中国は利用している。過大評価はやめなければならない。

米国内では、北朝鮮の核保有を容認し、その管理に焦点を当てるべきだとの主張が出ている。

 北朝鮮の核開発は金一族体制の正当性に結び付いており、核兵器を放棄させるのは極めて難しい。だが、米国が譲歩して北朝鮮の核保有を認めるべきではない。他国に誤ったメッセージを送り、不拡散体制を弱体化させることになる。

(聞き手=編集委員・早川俊行)