冷戦型の封じ込め政策を

どう見る北の脅威

米ヘリテージ財団上級研究員 ブルース・クリングナー氏(上)

北朝鮮の核・ミサイル開発はどの程度進んでいるとみるか。

ブルース・クリングナー氏

 ブルース・クリングナー氏 米中央情報局(CIA)、国防情報局(DIA)で計20年勤務。その後、調査コンサルタント会社ユーラシア・グループなどを経て、現在、大手シンクタンク、ヘリテージ財団上級研究員。

 北朝鮮のミサイルはすでに米国を攻撃する能力がある。少なくとも米本土の半分を射程に収める1万~1万1000㌔には達していると推定される。ニューヨークやワシントンDCまで到達する可能性もある。核開発については、核弾頭をミサイル搭載可能な水準まで小型化したかどうか議論されているが、もしまだだとしてもすぐに成功させるだろう。米国や同盟国は北朝鮮が小型化させたと仮定して対応すべきだ。

トランプ政権が北朝鮮に対して取れる行動は限られている。

 その通りだ。北朝鮮はすでに核兵器を保有しているため非核化は極めて困難な目標となった。現在は日本と韓国を核兵器で攻撃する能力があり、米本土を攻撃するための核兵器開発にも取り組んでいる。ただ、一部の人が主張するような、すぐに話し合いのテーブルに着くことは以前の交渉がすべて失敗したことを考えると、時期尚早と言える。また米国に対する攻撃の兆候がなくても北朝鮮を攻撃する「予防攻撃」も危険で無謀だ。こうした両極端な方法は正しい解決策と言えない。

非核化が困難なら、米国はどのような政策を取ればいいのか。

 北朝鮮に核を放棄させるのは難しいが、非核化は求め続けるべきだ。例えば、ある都市の市長や警察が「この街で犯罪を取り締まるのは困難だから、犯罪者のやりたいようにさせる」と言えば、誰もが間違っていると言うだろう。

 また米国は旧ソ連に対して行った冷戦型の長期的な封じ込め、抑止、そして政権を弱体化させる政策を取るべきだ。引き続き外交努力を続けて圧力を強化する必要もある。

米国が北朝鮮を攻撃する可能性は。

 先制攻撃に関してはトランプ政権から矛盾したメッセージが出ている。トランプ米大統領と一部の当局者は攻撃を検討していると示唆したが、他の政府高官は攻撃を否定するような発言をしている。私が政府当局者と話した限りでは攻撃の可能性は極めて低いと感じたが、0%とは言えない。

米国が攻撃すれば、北朝鮮は日本や韓国に反撃すると考えるか。

 北朝鮮がどう反応するかは分からないため、攻撃はかなりのリスクを伴う。移動式ミサイル発射台や他の発射台への攻撃程度なら北朝鮮は反撃しない、あるいは強く反応しないとの主張もあるが、それが大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成を妨げることにはならない。一方、ミサイル開発を阻止するほどのより広範囲への攻撃は、北朝鮮の強い反発を引き起こす可能性がある。つまり北朝鮮に対する攻撃は大規模になるほど効果的だが、それと共に日本や韓国、米国に対する反撃のリスクは高くなる。

トランプ氏が北朝鮮との対話に臨む可能性は。

 トランプ氏は大統領選中に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と会ってハンバーガーを食べると述べたが、今の段階で会談することは考えていないだろう。

(聞き手=ワシントン・岩城喜之)