米政権は軍事攻撃に慎重
元海将・金沢工業大学虎ノ門大学院教授 伊藤俊幸氏(下)
北朝鮮問題の今後の展開をどう見る。
北朝鮮が核を完全放棄したら対話に応じるというのが米国だ。これに対し、北朝鮮は核保有国として認めるなら対話するという立場だ。対話の道は残っているが、条件が合わない。だから、北朝鮮はミサイルを撃ち、米国は圧力をかけ、条件闘争が続いている。
その調整を任されたのが中国だった。中国は北朝鮮がミサイル・核実験を一時凍結することを条件に対話することを提案した。この提案に韓国やロシアだけでなく、米国も乗ったかのように見えた。
ティラーソン国務長官とマティス国防長官は連名の寄稿で、北朝鮮はまず挑発的な行動をやめるべきだ、というようなことを書いた。挑発的行動をやめれば対話すると読み取れ、米国が対話のハードルを下げたと受け止められた。
だが、北朝鮮がミサイル発射と核実験を行ったことで、米国は完全放棄を求める立場に戻った。B1爆撃機を飛ばすなどして、圧力で屈服させようとするモードがしばらく続くだろう。B1はバンカーバスター(地中貫通弾)やピンポイントで攻撃できる巡航ミサイルを備え、北朝鮮は非常に恐れている。
米国が軍事攻撃に踏み切る可能性は。
米国といえども自衛権の発動以外に戦争はできない。核実験に対して米国は攻撃するとの見方があるが、それは予防戦争、プリベンティブ・アタックであって国際法違反だ。やるならあくまで、北朝鮮が自分たちを狙って発射する兆候が見えた時の自衛の先制攻撃、プリエンプティブ・アタックだ。
米国の軍人は戦争好きだと多くの人が勘違いしているが、彼らは国際法のルールに極めて厳格だ。(退役海兵隊大将の)マティス国防長官とケリー大統領首席補佐官がいる限り、北朝鮮に奇襲攻撃をするようなことはあり得ない。
米国はシリアを攻撃したが、あれは人道支援だ。コソボ紛争以来、非人道的行為に対する軍事介入は国際法上、違反ではあるが正当と認められている。シリアが化学兵器を使ってむごい人権侵害をしたため、米国が空爆した。北朝鮮の核実験はこれに該当しない。
米国は軍事攻撃に慎重ということか。
軍事攻撃したら何が起きるか。第2次朝鮮戦争だ。大戦争となって数万人が死ぬかもしれない。ピンポイント攻撃だけで済むと考えるのは甘過ぎる。
北朝鮮をシリアと一緒にしてはいけない。シリアには反撃する能力はない。そもそも内戦中の国に撃ち込んでも何も変わらない。だが、北朝鮮にそれをやったら、大戦争のトリガーを引くことになる。砲門が一気に開かれ、ソウルが火に包まれ、陸上戦闘での殺し合いが始まる。
甚大な犠牲者を出す選択をマティス氏とケリー氏は絶対にしない。なぜそんなところで米兵を失わなければならないのかと。中東に集中したいというのが彼らの本音だ。米国が戦争に踏み切るハードルは低くない。
「核の共有」巡り国論二分も
米国は当面、圧力を掛けていくとしても、どこかの時点で北朝鮮をどうするか、決断しないといけないのでは。
このまま圧力を掛けてもらちが明かないと思った時、米国が北朝鮮を核保有国と認める可能性は否定できない。その瞬間、米国の思考過程は核抑止をどうするかに切り替わる。そこで起きるのは、核シェアリングの議論だ。
6回目の核実験を成功させた北朝鮮は、今や実質的に核保有国だ。他の国は5~6回の実験で核保有国と認められている。だからこそ、韓国内で独自で核武装すべきだとの議論が出ている。
だが、米国は韓国が自前で核を持つことは絶対に許さない。そこで米国が何をするかといえば、核シェアリングだ。
韓国が米国の核を共有すれば、北朝鮮の核は韓国に対して使えない兵器になる。名前は戦術核だが、実際は相互確証破壊をもたらす戦略的兵器になる。
日本にとってどのような意味を持つか。
最悪のシナリオだ。日本は核シェアリングをしなくていいのか、という国論を二分する議論になるだろう。非核三原則の「持たず」「作らず」はそのままで、「持ち込ませず」を変えるという議論になるが、戦後の日本人の感覚からすればあり得ないものだ。
自民党の石破茂元幹事長が核シェアリングについて語ったのは、そういう兆候があるからか。
アドバルーン(観測気球)の可能性が大だ。
議論が始まるのはまず韓国だ。韓国がどうするかにすべてかかっている。その後、韓国を見ている日本でも議論が起き、大変な論争になるだろう。
ただ、しばらくは米国を中心とした国際社会による圧力路線が続く。核シェアリングの議論はまだ先だと思う。
日本も敵基地攻撃能力を持つべきとの議論がある。
ミサイル防衛の範疇(はんちゅう)で考えるべきだ。排除しても排除しても北朝鮮からミサイルが飛んで来るなら、発射基地を叩(たた)く必要がある。懲罰的抑止力ではなく、拒否的抑止力が高まるという意味になる。巡航ミサイル「トマホーク」の導入を含めその能力は持つべきだろう。
(聞き手=編集委員・早川俊行)






