無人機が「対北SDI」に

どう見る北の脅威

元統合幕僚学校副校長・海将補 川村純彦氏

北朝鮮の脅威にどう対処すべきか。

川村純彦氏

 かわむら・すみひこ氏 昭和11年、鹿児島県生まれ。防衛大卒。海上自衛隊に入隊し、対潜哨戒機パイロット、在米日本大使館防衛駐在官、第5航空群司令、第4航空群司令、統幕学校副校長などを歴任。現在、川村純彦研究所代表、日本戦略研究フォーラム理事を務める。

 北朝鮮に核・ミサイル開発を断念させるには、圧力と対話だけでは不十分だ。北朝鮮が発射したミサイルをすべて叩(たた)き落とす能力を実際に示すことが最も効果的である。

 しかし、現在のミサイル防衛では、高い高度で打ち上げる「ロフテッド軌道」には対応できない。また、電磁パルス(EMP)攻撃への対応も課題だ。EMP兵器は30~400㌔の高度で爆発させれば、一発で日本全体が機能不全になる。

 現在のミサイル防衛では、大気圏外を飛翔中の「ミッドコース段階」と大気圏に再突入して落下してくる「ターミナル段階」で迎撃するが、高速で落ちてくるミサイルを100%撃ち落とすのは難しい。北朝鮮も多弾頭化や飽和攻撃など対抗手段を考えている。

 これに対し、日本ではすぐに敵基地攻撃能力を持つべきだという議論になる。だが、憲法上問題はないとしても、北朝鮮の反撃で大規模な被害が出ることを覚悟しなければならない。そこまで踏み切れるのか。それならば、北朝鮮が発射したミサイルをすべて叩き落とせる防衛システムの整備を目指すべきだ。

具体的にどうすればいいか。

 私が注目しているのは、発射直後の「ブースト段階」での迎撃だ。ブースト段階では、ミサイルが大きな燃料タンクを積んだまま、比較的遅い速度で上昇する。図体がでかく、速度が遅い上に、激しい光と熱を発するため、狙うには最適だ。ブースト段階の迎撃であれば、ロフテッド軌道や多弾頭にも対抗できるほか、撃破したミサイルの破片も相手側に落ちるなど、メリットが多い。

 これをどのような形で実現するかだが、米国でその手段として議論されているのが無人航空機(ドローン)だ。長距離空対空ミサイルを搭載したドローンに、北朝鮮を防空圏外から監視させ、ミサイルが発射されたら撃ち落とすのだ。ブースト段階は発射から90秒程度あり、狙う時間は十分ある。

 現在、北朝鮮を長時間監視できる無人機も、射程300㌔以上の長距離空対空ミサイルもある。個々の技術は既に存在する。これらを衛星からの監視と組み合わせるだけだ。米国側の話では、2年以内に実用化できるという。しかも、イージス艦搭載の迎撃ミサイル「SM3」や地対空誘導弾「PAC3」などと比べ、はるかに安い費用で済む。

日本はこれを推し進めるべきか。

 ブースト段階での迎撃が、北朝鮮に対する唯一の有効な対処法だと思う。日本政府はすぐに検討を始めなければならない。相手が撃ったものを迎撃することは正当防衛であり、敵基地攻撃に比べてハードルははるかに低い。

 日米はこれを共同で推進すべきだ。米国に基地を提供する日本は、無人機の拠点になる。

 北朝鮮は数年以内に核を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させる可能性がある。それだけに、ブースト段階の迎撃が戦略的に重要性を持ってくる。

 ブースト段階での迎撃には北朝鮮も対応できないであろう。北朝鮮はミサイルを撃っても無駄ということになり、冷戦時代末期に米国がソ連にとどめを刺した戦略防衛構想(SDI)のような効果を発揮する可能性がある。

日本の迎撃態勢を3段階に

潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)への対応も可能か。

 可能だ。2015年5月、北朝鮮が海面か海中からSLBMを発射した映像を公表したが、映像の詳しい分析の結果、これは水面上からの発射だったと判断されている。米軍は公表された映像を加工されたものとみている。

 北朝鮮の潜水艦が発する雑音は大きく、探知は困難ではない。米軍は北朝鮮の潜水艦をすべて捕捉できると私は見ている。北朝鮮近海に潜っているものも含めてだ。

ブースト段階での迎撃は長年議論されてきたが、これまで実現しなかったのはなぜか。

 その手段がなかったからだ。だが、無人機の急速な発達と長距離空対空ミサイルの開発により、実現の可能性が出てきた。

 米国は当初、ブースト段階の迎撃を航空機に搭載した高出力レーザーで破壊する「エアボーン・レーザー」(ABL)でやろうとしていた。だが、レーザーは射程が短い上に、標的に対して一定時間、照射しなければならない。上昇中のミサイルにレーザーを正確に照射し続けることは、技術的にまだ困難だ。

北朝鮮の上空で迎撃すれば、先制攻撃と受け止められ、反撃を招く恐れはないか。

 通信衛星や観測衛星など平和目的以外の北朝鮮による発射は、米国か日本に向けて撃たれたミサイルと見なし、すべて迎撃すると宣言しておけばいい。そうすれば国際法上も問題ない。相手が撃ったのだから自衛権の発動だ。自分が発射したものを撃ち落とされたからといって反撃することこそ、明らかな侵略行為だ。

ブースト段階での迎撃能力は、日本のミサイル防衛態勢にどのような意味を持つか。

 ブースト段階ですべて迎撃できるわけではない。曇りの日など天候によっては上空から発射を探知するのが難しいかもしれない。従来のミサイル防衛にも今まで以上に力を入れないといけない。

 ブースト段階での迎撃能力を持つことで、ミッドコース段階、ターミナル段階と合わせ、3段階で北朝鮮のミサイルを撃ち落とす防衛態勢が整うことになる。

(聞き手=編集委員・早川俊行)