在キューバ米外交官の相次ぐ健康被害、トランプ政権は大使館閉鎖も検討
国交回復後では最悪の関係に
キューバに駐在する米国の外交官やその家族らが相次いで聴覚障害や頭痛、めまいなどの健康被害を訴えている問題で、トランプ政権はキューバが外交官の保護を定めたウィーン条約に違反しているとして批判を強めている。米政府は駐キューバ大使館の閉鎖もちらつかせるなど、両国関係は悪化の一途をたどっている。(ワシントン・岩城喜之)
在キューバの外交官らが健康被害を訴えだしたのは、昨年11月に行われた米大統領選でトランプ氏が勝利した直後からだ。当初は被害者も数人だったが、キューバ政府から提供された自宅やホテルで不快な音が鳴り続き、被害は徐々に拡大していった。
米国務省は、健康被害を受けた大使館職員らが今月20日の時点で24人に上ったと発表。「音波攻撃」は8月以降確認されていないが、同省はさらに被害者が名乗り出てくる可能性もあるとしている。
被害の拡大に伴い、米政府は先月下旬に大使館職員の半数以上を退避させ、キューバ人への査証(ビザ)発給を停止。今月3日には対抗措置として駐米キューバ大使館の外交官15人を国外退去処分にした。
ワシントン・エグザミナー紙は「大使館職員に対する事件は、オバマ前大統領が目指してきたキューバとの関係改善を台無しにした」と指摘。キューバが関与したかどうかにかかわらず、ウィーン条約で定めた外交官を保護するための措置を講じていないと断罪した。
CNNテレビによると、これまでもキューバに駐在していた米国人外交官の自宅に何者かが侵入するなどの嫌がらせがたびたび起こっていたが、2015年に当時のオバマ大統領がキューバとの国交を回復してからはピタリとやんだという。しかし、オバマ政権からの転換を掲げ、キューバとの国交正常化見直しも示唆していたトランプ氏が大統領に選ばれると、「音波攻撃」が行われるようになった。
米捜査当局は何者かが人体に影響を及ぼす超音波か低周波を流して攻撃を仕掛けた可能性が高いとして慎重に原因を調べると同時に、録音した音波の解析を進めている。
トランプ氏は16日に行った記者会見で、キューバの関与こそ断定しなかったものの、「キューバは(攻撃について)知っていたと思う」と主張。さらに「(一連の問題は)キューバに責任がある。異常な攻撃だ」と非難した。
ティラーソン国務長官も先月中旬に出演したテレビ番組で、大使館の閉鎖を検討していると述べ、キューバを強く牽制(けんせい)した。
これに対してキューバ政府は関与を一貫して否定。逆にトランプ政権への反発を強めるなど、両国関係は国交回復後、最悪の状態に陥っている。
ただ、米国内ではキューバの関与を疑う声は多い。ボブ・コーカー上院議員は、状況から見てキューバ政府が関わっている可能性があると指摘。クリス・クーンズ上院議員も「キューバは強力な情報機関を持ち、厳しく管理された社会だ」とし、「事件に関与していないと主張するのなら、それを証明する責任がある」と語った。
キューバ系移民2世のマルコ・ルビオ上院議員は「キューバ政府が攻撃について知らないというのは、ばかげた話だ」とし、ラウル・カストロ国家評議会議長の許可なしに米外交官への攻撃が行われることはないと断言。また「無関係を装っているカストロ政権に、だまされてはいけない」と述べ、対キューバ貿易禁止措置の解除手続きを進めないよう米政府に要望している。