核保有容認は危険な考え

米ヘリテージ財団上級研究員 ブルース・クリングナー氏(下)

あなたは6月にスウェーデンで行われた北朝鮮当局者との非公式会合に参加した。北朝鮮側は何を話したのか。

ブルース・クリングナー氏

 北朝鮮のメッセージは非常に明快だった。米国や同盟国が核の放棄を迫っても決して非核化しないというものだ。北朝鮮側は「われわれを核保有国と認めて平和条約に向けた交渉の席に着くか、あるいは戦うかのどちらかだ」と語っていた。

中国が北朝鮮への圧力を強化すると考えるか。

 中国は国連の制裁措置を完全には履行しておらず、中国企業が北朝鮮の違法な活動に協力することも見て見ぬふりをしている。今後も米国や同盟国が望むような強い圧力をかけることはないだろう。

一部の専門家からは北朝鮮の核兵器保有容認論も出ている。

 核保有容認には賛成できない。北朝鮮を核保有国として認めれば核拡散防止条約(NPT)体制が揺らぎかねず、イランのように核兵器を持ちたがっている国にも危険な信号を送ることになる。また米国の同盟国、特に日本と韓国は米国の防衛に対するコミットメントに疑問を持つだろう。

米国には日韓の核武装を容認する意見もある。

 日本には非核三原則があり、多くの日本人が核武装に否定的なため核兵器を持つ可能性は低いだろう。韓国では核武装を求める声が高まっているが、核兵器を持っても軍事的にはあまり意味がない。兵器や核燃料を入手させないよう国際社会が韓国に対して制裁を科す可能性もある。

韓国では戦術核の再配備を求める声も高まっているが。

 戦術核の再配備は実行可能な選択肢でない。1991年に撤去された地上の核兵器システムはもはや存在せず、軍事的に意味を成さないからだ。現在の核兵器システムは、艦艇や飛行機、潜水艦に搭載され、北朝鮮に見つからないようにしている。先制攻撃を受ける可能性のある標的をわざわざ作る必要はない。

日本の「敵基地攻撃能力」保有についてはどうか。

 それは難しい質問だ。日本の防衛戦略は日本自らが議論する問題であり、米国側が意見を述べるのは時期尚早だ。ただ、敵基地攻撃能力は核武装と同様に日本では論争の的になるだろう。

北朝鮮の脅威に対して日本はどう対応すべきか。

 日本はすでに地上配備型迎撃ミサイルパトリオット(PAC3)やイージス艦搭載の迎撃ミサイル「SM3」など強固なミサイル防衛システムを取り入れ、多くの対策を実施している。また日本政府は陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入も目指している。北朝鮮の挑発に対しては米国と緊密に連携してきた。努力が必要な分野は韓国との関係改善だろう。

韓半島情勢の今後の見通しは。

 北朝鮮が核・ミサイル実験を続けるのは確実だ。一方、トランプ氏の行動を予測するのは難しいため、どのような政策を取るのかは分からない。韓国の文在寅大統領は北朝鮮の挑発に対して驚くほどの強硬姿勢を示しており、しばらくはこうした姿勢を維持するだろう。ただ、北朝鮮が韓国に接触を図ったり、米国が北朝鮮を攻撃すると感じた場合には軟化する可能性もある。

(聞き手=ワシントン・岩城喜之)