指導者殺害でテロは終わらない

ビル・ガーツ

 国際テロ組織アルカイダのウサマ・ビンラディン殺害作戦に参加した特殊作戦軍のレイモンド・トマス司令官はコロラド州アスペンで行われた安全保障フォーラムで、指導者の死は大きな転機となったが、世界的なテロとの戦いは終わらなかったと語った。

 トマス氏は、海軍の特殊部隊シールズが2011年5月2日にパキスタンのアボタバードにあるビンラディンの隠れ家を襲撃し、射殺したとき、パキスタン近くに前方展開していた。

 トマス氏は「当時は確かに、これできれいになると思われていた。数多くの本や映画で取り上げられているが、暗号『ジェロニモ』という言葉を聞くと、それだけで興奮した。『ここまで来るのに10年かかった。大変な10年だった』」と作戦を振り返った。

 ジェロニモは、ビンラディンが殺害されるか拘束されたことを示すために指揮官らが使っていた暗号だ。

 トマス氏は「大きな影響があると思われていた。実際、強い権力を持つ、アルカイダのシンボルであり、組織のトップに立つが、組織全体をつぶさなければ、イデオロギーの問題に対処しなければ、一人の男を殺しただけで終わる」と殺害の効果が予想に反して限定的だったことを明らかにした。

 これは、トランプ政権高官らの考え方を反映したものだ。トランプ政権では、テロ対策は、テロ組織の指導者を殺害し、アルカイダや「イスラム国」(IS)などの組織を動かしている過激なイスラム思想に対処することだと考えられている。

 トマス氏は、情報機関と軍がビンラディンを殺害するために長い、困難な戦いをしてきたが、それらは、テロ問題の解決にはつながらなかったと主張。「私は殺害は必要だと思っていた。米国を攻撃した者は容赦なく追跡することを国民に知らせることはいいことだと思う。しかし、実際には、それは、これまでの戦いの中の一つのステップにすぎなかった」と述べた。

 ISの指導者バグダディについて同氏は、依然としてテロ組織の象徴的な指導者であり、ISと間違いなくつながっていると指摘。ロシアのメディアが報じたように殺害されたとは思っていないと語った。

 トマス氏は「生きていても、完全に力を失っていると考えている。アルカイダの体制を維持しようとしている(アルカイダの指導者)ザワヒリとは違う」と語った上で、「バグダディ自身の声は聞こえてこないが、死んではいない。ラッカの南にいる可能性がある」と依然行方を追っていることを明らかにした。

 トマス氏によると、側近らを含めバグダディの支持者6万から7万人が死亡したとみられている。