三役そろった八田與一慰霊祭ー台湾から


地球だより

 5月8日、台湾南部にある烏山頭ダムのほとりで、八田與一の慰霊祭が営まれた。八田は台湾総督府の技師で、日本統治時代の1920年に着工したダム建設の陣頭指揮を執って完成に導き、それまで旱魃(かんばつ)に悩まされた不毛の嘉南平野を一躍肥沃(ひよく)の地に変えた。

 犠牲者も出たが、ダム完成後に慰霊碑を建立した八田は、台湾人も日本人も分け隔てなく同列に名前を刻んだ。

 当時、統治者という威光を笠(かさ)に、台湾人に差別的な言動を取る人間もいたというが、八田は仕事に対しては誰よりも厳しく、仕事が終われば誰とでも公平に接する振る舞いで、多くの尊敬を集めたという。李登輝元総統が、日本統治時代の台湾に貢献した代表的日本人として八田を挙げるゆえんだ。

 今年はダム工事着工から100周年を迎え、記念式典も同時に行われたが、蔡英文総統、頼清徳副総統、蘇貞昌行政院長(首相)の「三役」がそろって出席して「異例」と報じられた。政治的な集まりを除けば、危機管理上の観点から、よほど重要なものでない限り「三役」が同じ会場に顔をそろえることはないという。

 式典に出席した地元農民は、「祖父からも父からも、八田技師への感謝を忘れてはならない」と教えられて育ったという。戦後80年近くにわたって八田の功績を認め、公平に評価し、今もなお顕彰を続けて大切にしてくれる台湾の人々に対し、感謝しなければならないのは、むしろ私たち日本人の方ではないだろうか。

(H)