中国攻勢で迫る台湾危機
米コラムニスト ジョージ・ウィル
「あいまい戦略」放棄を
バイデン氏に重大試練
「バイデン政権」の最初の重大な試練が、騒々しい全体主義の靴音を響かせながら近づいている。2021年、台湾が、キューバ・ミサイル危機の1962年以来、米国にとって最も深刻な危機を招来するかもしれない。
バイデン前副大統領が2001年に主張していたような、台湾に関する「戦略的あいまい」政策はすでに通用しなくなっている。
ブッシュ(子)大統領はこの年、台湾が中国から攻撃された場合、台湾を防衛する義務はあるかという質問に、「ある。中国はそれを理解しなければならない」と答えた。「米軍の全力を投入するのか」という質問には、「できる限り」と答えた。ブッシュ政権の国家安全保障担当補佐官だったコンドリーザ・ライス氏は、「台湾関係法には、台湾の平和な生活が力で覆されないようにする義務があることが明記されている」と述べている。
◇現状維持へ脅威
バイデン氏はこれに「正確にはそうではない」と応じた。バイデン氏はワシントン・ポスト紙に投稿したコラムで、米国が1979年台湾関係法で、台湾の「自治」を守り、「十分な自衛能力」を持つために必要な「防衛物資と防衛設備」を提供すると約束していることを確認する一方で、「(米国は1980年に)1954年相互防衛条約を破棄しており、台湾を防衛する義務はない」とも主張した。
バイデン氏によるとこの法律によって、「平和的な手段以外の方法で台湾の未来を決めようとするいかなる試みにも、『重大な懸念』を抱く」ことは米国の政策になっている。しかし、バイデン氏は、「台湾防衛のために、力の行使の権利を留保することと、義務付けることの間には大きな違いがあるはずだ」と強調、台湾、中国に「台湾海峡を挟んだ戦争に米国を自動的に引きずり込む力」を持たせるべきでないと主張している。
19年前、台湾が大陸を攻撃して、戦争に「米国が引きずり込まれる」ということは考えられなかった。現在、情勢は台湾が有利な方向に働いている。
2001年の世論調査で、台湾住民に自身が台湾人と思うか、中国人と思うかと質問している。中国人だと思うは10・6%、台湾人は41・6%、43・1%は両方だった。現在は、66%が台湾人、28%が両方、中国人だと思うのはわずか4%だ。台湾人の過半数が、いつか独立することを望む一方で、中国政府が台湾の現状維持への脅威になっている。中華民国(台湾)と中華人民共和国は共に一つの国の一部とする「一つの中国政策」は、外交の実態にそぐわず、香港でそれが見せ掛けにすぎないことがはっきりした。
2001年、中国は軍備増強を開始し、軍事費は1990年から2017年の間に10倍に増加した。2001年、中国の国内総生産(GDP)は、米国のGDPの12・7%だった。今ではほぼ70%になっている。ソ連のGDPが米国の60%を超えることはなかった。
2001年、中国は、国際法に反し、面積350万平方キロの南シナ海の主権をそれほど強く主張してはいなかった。南シナ海を通じて年間、3兆4000億ドルの物資が運ばれている。2001年、1997年の返還時に交わした英国との合意の下で、香港の自治は2047年まで守られると思われていた。
現在、香港の自由は風前の灯だ。中国の独裁者、習近平氏は2017年に「歴史の車輪は回り、時代の潮流は力強い」と語っていたが、これは香港を視野に入れた発言だった。習氏は「歴史は、確固とした決意、意欲を持っている者には優しいが、ちゅうちょする者を待ってはくれない」と述べている。インド国境での流血事件、南シナ海での法を無視した攻勢、特に欧州で顕著な粗暴な「戦狼外交」など、中国は尊大で無謀な振る舞いを続けている。
また、体制内の力学が対外的な行動に反映されることがある。ニューヨーク・タイムズ紙によると、習政権は、「絶対的な忠誠と信頼をもって」すべての人に「習氏に従わせる」よう、「刃物を撃ち込み」「骨から毒を削り取る」よう治安機関に指示している。
◇自由香港の弾圧
習氏は、香港を弾圧した。習氏にその力があったからであり、中国の端の方にいる自由な人々が、不安定化を招く政治ウイルスで大陸を脅かしたからだ。台湾の2400万人の自由な人々について習氏は昨年、「力の行使をしないとは約束しておらず、あらゆる必要な手段を留保する」と述べた。
習氏にとって台湾が自立していることは、1949年の共産主義者による中国征服が完了していないことを意味する。それを完了させれば、中国の歴史に名を残せることは間違いない。
台湾、またはその周辺の島々の攻撃を考えているとしたら、「バイデン大統領」の考えを理解しているからだろう。あいまい性は外交では有効だが、危機が迫った状況では役に立たない。