5年半ぶりの消費増税に景気から財政再建重視により傾斜の読売社説
◆慎重論は本紙だけ
1日、消費税率が10%に引き上げられた。5年半ぶりの増税である。今回は過去の増税で消費が予想以上に低迷したことから、景気の腰折れを防ぐために、ポイント還元制度などの景気対策や、飲食料品などの税率を据え置く軽減税率を初めて導入した。
これについて、在京7紙すべてが9月30日付か10月1日付社説で論評を掲載。このうち、読売、朝日、産経の3紙は通常2本立ての枠に1本でまとめた大社説だった。
各紙の見出しを列挙すると、30日付毎日「納得できる国の将来像を」、産経「円滑な実施に全力挙げよ/社会保障支える意義を説け」、日経「消費税率10%時代を円滑に迎えよう」、1日付読売「社会保障支える重要な財源だ/軽減税率を円滑に浸透させたい」、朝日「支え合う社会の将来像描け」、東京「丁寧な説明の継続を」、本紙「景気変調には機動的対応を」――。
見出しからも分かるように、読売や産経、日経、東京が円滑な実施への努力を求め、朝日と毎日は増税の目的論を展開。実施に慎重論を唱えたのは本紙だけだった。
特に大社説で力の入った読売の趣旨は、「社会保障制度を安定させ、財政健全化を進めるためには欠かせない増税である。得られる新たな財源を、国民の将来不安の軽減に生かさなければならない」である。そして、この趣旨に添って、小見出しに取った「将来世代にツケ回すな」、「一段の引き上げ論じよ」との内容を展開する。
最近の読売は景気重視から財政再建重視の論調に変わったようで、今回もそう感じさせる内容になっている。
気になるのは、例えば、「今回の引き上げで税収は約4・6兆円増える。このうち約2・8兆円を社会保障の充実などにあて、残りは財政再建に使う」という指摘だ。
◆増税悪影響説く産経
確かに消費税率を上げれば、消費税収は増えるが、増税のダメージによる景気の悪化で法人税収や所得税収が影響を受けるのは必至であり、財政健全化を論じるのであればトータルでの税収がどうなるかを見ないといけないが、そうした考慮がない。
この論法を進めると、法人税や所得税の税収減少を消費税増税で穴埋めすることにつながり、税収減→増税の悪循環に陥りかねない。日頃、景気問題で同紙が説く好循環どころではなくなるのである。
この点、同様に「円滑な実施」を説く産経は、「増税による景気への影響を過小評価すべきではない」こともきちんと指摘。そして、「景気が失速する恐れがあれば、適切な財政・金融政策を果断に講じて、景気を腰折れを防がなければならない」と強調する。同感である。日経にも、産経のような指摘はない。
増税の目的論から「支え合う社会の将来像描け」とした朝日は、「労働力も納税者も減る時代が迫るなか」での、持続可能な社会保障制度に重点を置き、「将来にわたって給付と負担のバランスをとり、社会の支え合いの機能を高めていかねばならない」と指摘。そのために、「新しい時代にふさわしい社会保障と税制の姿を描く議論を、急ぎたい」としたが、一理ある。
◆具体的視点示す朝日
そのために同紙は、「どんな社会保障のメニューをだれにどう届けるのか」、また、「どのくらいの経済成長が続けば負担増は避けられるのか、避けられないとすれば、給付を支える負担のしくみはどのような形が望ましいのか、考えることが求められる」などと具体的な視点を提示している。
前回の増税で実施に反対していた東京は、「薄く広く」という言葉の下で所得の低い層へ負担増を突き付ける税だ、との指摘はあるものの、今回は慎重論もなし。税率の線引きなどが複雑で混乱必至の軽減税率が、「その負担を和らげるのなら、より分かりやすい制度として定着するよう政府は根気強く説明を続け」るべきと理解を示す。軽減税率については、毎日も「痛税感を和らげ、消費の落ち込みを防ぐ効果が見込める」と評価する。
(床井明男)