石油施設攻撃でサウジの防空能力の欠如に警鐘鳴らす米政治専門紙
◆米は報復攻撃行わず
サウジアラビア東部の石油施設が大規模な爆撃を受け、中東に激震が走った。この攻撃で、一時的だが、サウジの石油産出量が半減し、原油価格は急騰した。世界の原油産出量の5%に当たる。サウジ経済にとって生命線である原油施設への無人機、巡航ミサイルによる攻撃に対して、サウジが全く無力だったこと、攻撃に関与したとみられているイランの攻撃能力が極めて高度であることが明らかになり、今後のペルシャ湾岸情勢にも、大きな影響が及ぶとみられている。
米シンクタンクの中東研究員デービッド・オタウェー氏は米政治専門紙ザ・ヒルで、トランプ米大統領、ムハンマド・サウジ皇太子について、「イランからの原油施設を守るという点では、『裸の王様』という印象を持たれるという共通の大問題」を抱えることになったと指摘した。
ペンス米副大統領は攻撃を受けて、今後のイランからの攻撃を防止するために直ちに「抑止力を回復」させる必要があると指摘した。
トランプ大統領は、攻撃へのイランの関与を主張した。その一方で、軍事力による報復を行わないことを明らかにするとともに、小規模な防空ミサイル部隊をサウジに派遣することを決めた。
ペルシャ湾岸には2万人の兵力、艦艇20隻、100機以上の攻撃機を擁する米第5艦隊が派遣され、司令部があるバーレーンは、攻撃地点からわずか100㌔ほど。米国はイラン情勢をめぐる緊張の高まりを受けて5月、湾岸同盟国と航路の防衛のために1500人の兵力増強をしたばかりだ。にもかかわらずサウジ攻撃では、事前に察知することもできず、20機以上の無人機、ミサイルを一機も迎撃できなかった。
◆さらに大胆な行動も
オタウェー氏は、イランの「ステルス攻撃」で「イランの能力への認識が劇的に変わった」と指摘。攻撃を成功させたイランは、今後、さらに大胆な行動に出てくることが予想される警鐘を鳴らした。
また、大統領選を控えて外交で実績を急ぐトランプ氏に対し「代理組織を通じて、直接、間接的にトランプ氏に再び鎌をかける可能性が非常に高い」と、イエメンのフーシ派やレバノンのヒズボラの活動が活発化する可能生を指摘した。
トランプ氏は9月の国連総会での演説で、「全ての国が行動する義務がある」とイランへの対応を国際社会に求めた。しかし、米国が呼び掛けたペルシャ湾岸警備のための有志連合の設置に国際社会の反応は冷ややかだった。トランプ氏の国際社会への呼び掛けについてオタウェー氏は、核合意離脱と「最大限の圧力」で「イランをめぐる危機を招来した責任をかわすには有効だ」とトランプ氏のイラン政策を揶揄(やゆ)した。
またオタウェー氏は「信頼できる防空システムを設置することが急務」と指摘、「力を増すイランとの闘いの中で、王様には新たな服が必要だ」と、米、サウジの現状に危機感を訴えている。
◆変わる周辺の風向き
一方で、石油・ガス関連ニュースサイトの「アップストリーム・オンライン」は、攻撃が「分水嶺となり、サウジ、イラン間の40年にわたる敵対関係が終わりを告げる」可能性を指摘した。
サウジは、攻撃を受けて、米国によるイランへの報復を期待したが、トランプ氏が武力行使を見送ったことで、サウジも同調せざるを得なくなったという見方だ。昨年のサウジの国防費は676億㌦に達し、「そのうちの多くは最新の航空機、防空システムに費やされたにもかかわらず、攻撃を止められなかった」のだから、ここでイランと一戦を構えることは自殺行為になりかねない。ここは、大規模攻撃に打って出たイランの勝ちということになる。
同サイトは、「逆説的だが」と断った上で、今回の攻撃が「イランと近隣のアラブ諸国が和解し、地域戦争の防止と、原油輸送の安全確保に貢献する」可能性を指摘した。
非常に楽観的な見方だが、この攻撃で、イラン周辺の風向きが変わるのは確かだ。
(本田隆文)