特集「ファーウェイ大解剖」で米中貿易戦争の本質に迫るエコノミスト
◆「5Gの覇者」的企業
米中貿易戦争は依然として予断を許さない状況が続いている。米国は昨年7月6日、中国からの輸入品に対して追加関税措置を発表し、対する中国も報復関税措置を発動した。その後も米国は2度にわたって対象品目および金額を広げていくが、その都度中国も報復関税を発動。米国は今なお、中国からの輸入品全て網羅する第4弾の制裁関税をちらつかせるなど、強気の姿勢を崩していない。
加えてトランプ米大統領は今年5月15日、国家安全保障上問題があるとして中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)に対し米国からの部品調達を制限する大統領令に署名した。事実上の米国企業がファーウェイと取引することを禁止したのである。もっとも、6月29日に大阪で開催された20カ国・地域(G20)首脳会議でトランプ大統領は、制裁の緩和を打ち出したが、いわゆる国家安全保障上脅威となる外国企業リスト(エンティティ・リスト)から除外していない。
週刊エコノミスト(7月17日号)は、「ファーウェイ大解剖」と見出しを付けながら、同社に焦点を当て、米中関係の今後を予測した。米国政府にとってファーウェイがなぜ脅威なのか。それは、「5Gの覇者」的な企業だからである。今や5G(第5世代移動通信)は広く知れ渡った言葉だが、これが人工知能(AI)と結び付くと通信分野だけでなく、医療や交通、さらに産業、教育・軍事などの分野において大変革をもたらす夢の技術とされる。
その5Gに関して通信インフラ機器で世界シェアの3割を占めているのがファーウェイなのである。しかも、同社はグローバル・スタンダードともいうべき「標準化」のための特許を最も多く有しており、通信分野において世界の中枢を担い続ける可能性が極めて大きい。
◆問題は「国家情報法」
問題なのはファーウェイが中国企業だということ。エコノミストは、IHSマークイット日本調査部の南川明ディレクターの見解として、「中国が2年前に制定した『国家情報法』が問題の根底にある」ことを指摘する。ちなみに同法7条には、「中国国民および中国企業に国家の情報活動を支持、協力」することを義務付けている。
中国政府はこれについて、同法8条を出して、「国家の情報活動は法に基づいて行われ、人権を尊重・保証し、個人や組織の利益を守る」と弁明するが、中国は人権派の弁護士は投獄され、思想・表現の自由は制限されるといういびつな国。そもそも、「国家の情報活動への協力」を法律で明記すること自体が民主主義から懸け離れているのである。
とにかく、前述の南川氏が語るように、「ファーウェイの通信インフラが米国全土に張り巡らされれば米国は丸裸になる」ということへの危機感が米国内に拡散しているわけである。
◆中国が対日微笑外交
そして、同誌にもう一つ興味深い記事があるので紹介したい。遠藤誉・筑波大学名誉教授が、「ファーウェイは今、トランプ政権からの激しい攻撃を受けるに至り、中国政府との距離を非常に限りなく近づけている」と警告し、その一方で、「習近平国家主席は米国からの猛烈な攻撃を受けて、日本に満面の笑みを向けるようになった。それは日本から大量にハイレベルの半導体が欲しいからであり、『中国の知恵』として生み出した一帯一路に日本を誘い込むためである」と中国の微笑(ほほえ)み外交に注意せよと訴える。
さらに、「日米同盟の離間と米国へのけん制、そして中国の実利、すべてを計算尽くした中国の戦略に安倍首相はまんまと乗り、言論弾圧する一党支配国家である中国の世界覇権に手を貸している」と述べ、中国の腹の内を探りながら、大局を見ていかなければ、のみ込まれてしまうと訴える。今となっては、ファーウェイは中国の核心的利益であり、簡単に譲歩することはない。米中貿易戦争の背景には経済問題と同時に思想・イデオロギー闘争がある。従って、長期化は当然のことと見るべきである。
(湯朝 肇)