左派紙は年金問題で盛んに不安を煽るが問われているのは家族の価値観
◆低年金者のお涙物語
参院選では野党と左派メディアは「老後2000万円不足」を持ち出し、盛んに不安を煽(あお)った。こんな令和の政治風景を天平の歌人、山上憶良ならどう見るだろうか。
そう思ったのは憶良に「貧窮問答の歌」(万葉集・巻5)があるからだ。問答は長歌で貧しい生活をリアルに描き、短歌でこう歌う。
「世の中を 憂(うれ)しと恥(やさ)しと思へども 飛び立ちかねつ 鳥にしあらねば」(人の世を生きていくのは辛くて恥ずかしいが、どこかへ飛び去るわけにもいかない、鳥ではないのだから)
今の境遇をしっかりと受け止めて生きていこう。そんな応援歌に聞こえる。与党勝利の選挙結果を見ると、令和の日本人も冷静だったようだ。これに引き換え、左派メディアの選挙ルポは現実からぶっ飛んでいた。
その典型が沖縄タイムス15日付の「『争点』の足元で 2019参院選」と題するルポ記事だ。「暮らし困窮 もう限界/食費削り日々不安」の見出しを掲げ、「低年金者」のこんなお涙物語を記す。
―「お金がなくて、毎日、明日生きられるかと考える。低年金者は死ぬのを待つだけなのか」。那覇市に住む女性(75)は目に涙をためながら逼迫(ひっぱく)した生活をぽつりぽつりと語った。2カ月に1度、手にする国民年金は9万円。貯金はなく、月4万5千円が生活費の全て。大半が市営住宅の家賃と光熱・通信費に消える。1日に使える金は平均約560円。食料は自宅から徒歩で片道約20分のスーパーで半額セールになった総菜を購入する。―
女性は飲食店で働いていたが、事業所は厚生年金未加入。低賃金で国民年金の納付を後回しに。夫はすでに他界。記事は「老後に夫婦で2000万円必要とした金融庁報告書を巡るニュースを目にするたび、不満とストレス、怒りがこみ上げる。『今、生きている高齢者に目が向けられていない』」と結んでいる。
◆家族はいるが頼れず
確かに低年金者の暮らしには同情する。だが、記事にはこんな一文があった。
「4人の子どもは自宅近くに暮らすが、『迷惑を掛けたくない』と頼れないという」
えっ、子供が4人もいるではないか。女性は子育てで大変だったろう。それで国民年金を納付できなかったのではないか。そんな母親が毎日、明日生きられるかと苦しんでいるのに子供は知らんふり? とすれば、女性のストレスの真の原因は年金でなく、家族にあるのではないか。そんなふうに思えてくるのだが、記事は何が何でも年金問題だ。
先週の本欄で紹介したが、朝日の「ルポ現在地 2019参院選」には共産党系団体がたびたび登場した。7日付「開けぬ展望『老後、ひとりぼっち』」は、「参院選が公示された4日、群馬県の前橋協立病院を訪れた」と、共産党系の民医連の有力病院を真っ先に訪ね、70歳代後半の男性が紹介されている。
記事には「一人暮らしで頼れる家族はなく、年金は月10万円。家賃を払うとギリギリの生活だったようで、所持金と預貯金を合わせて全財産は約8万円」とある。沖縄の女性よりは“裕福”だが、「頼れる家族」がいないと書かれているところから察するに、「頼れない家族」はいるらしい。とすれば、「ひとりぼっち」はこれも年金問題でなく、家族問題ではないのか。
◆金銀に惑わされるな
朝日は自民党の三ツ矢憲生衆院議員が同党女性候補者の応援演説で、「(候補者の)この6年間で一番大きな功績は子供をつくったこと」と述べたことを問題発言のように報じている(13日付)。そうだろうか、憶良に聞いてみよう。
「銀(しろかね)も 金(くかね)も玉も 何せむに まされる宝 子にしかめやも」(銀も金も真珠も、何になろうか。大切な宝と言ったら、子にまさるものなどありはしない=万葉集・巻5)
少子化も年金も、詰まるところ家族をめぐる価値観が問われているのだ。金や銀や玉に惑わされてはなるまいぞ。
(増 記代司)