アポロ月着陸50年で「日本ならでは」の貢献で分かれた各紙の論調

◆高い着陸技術に期待

 「1人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」――

 アポロ11号のアームストロング船長が人類として初めて月面に一歩を記した時の言葉である。今月20日、その月着陸から50年を迎えた。

 半世紀という大きな節目に際し、日本では参院選挙戦の終盤だったが、読売、日経、産経、毎日の4紙が社説で論評を掲載した。

 見出しを列挙すると次の通り。読売(18日付)「宇宙開発の夢を追い続けよう」、日経(20日付)「アポロ月着陸50年の向こうへ」、産経(21日付)「有人探査に積極的貢献を」、毎日(同)「様変わりした宇宙の利用」――。

 文字通り、強い主張を打ち出しているのは産経である。

 米中など宇宙大国はここへきて、再び月を目指し、特に米国はその先に有人火星探査をも見据える。そうした中、産経は「月・火星探査や有人活動に日本が深くかかわることになるのは間違いない」と強調する。

 というのも、日本は国際宇宙ステーション(ISS)計画で、「こうのとり」での物資輸送や「きぼう」での宇宙実験、日本人宇宙飛行士がキャプテンまで務めるなど人的にも物的にも大きく貢献し、有人宇宙活動の経験と実績を積んできたからだ。

 同紙が「有人活動の主舞台が月、火星に移行しても、国際協力の枠組みは不可欠である」とみるのはその通りだが、では日本はどういう協力ができるのか。

 月探査に対して、日本は独自には2021年度に無人の月面着陸機を打ち上げ、半径100㍍以内の高精度の着陸技術を実証する計画で、産経は「日本ならでは」の存在感を示してもらいたいとエールを送る。

 探査機「はやぶさ2」が小惑星「りゅうぐう」への2度の着陸に成功した後だけに、同紙が「無人探査で世界を牽引(けんいん)する日本の技術力を有人探査に生かしたい」とするのも尤(もっと)もで、同紙が指摘する通り、独自の有人宇宙船開発についても本格的な議論を進める必要はあるだろう。

◆国際ルールづくりを

 これに対して、「ただ、限られた予算で何から何まで手がけるわけにはいかない。長期的な戦略の下で優先順位を付け、国として集中投資すべきものを選別していく必要がある」としたのは日経。

 同紙は例えば、小型で安価なロケットや月面探査機、物資輸送システムなどの開発・運用は民間の力を最大限活用すべきだと指摘。また、はやぶさなどで培った着陸・探査技術の民間への移転を進め、ベンチャー投資を呼び込む工夫をしてほしいとしたが、米国ほど受け皿となる企業が十分に育っていない状況でどこまで可能か。その点では、「政府がベンチャー企業育成の支援を強化すべきだ」とした読売の方が分かりやすい。

 もっとも、日経が主張する「資源開発の国際ルールづくりなどで役割を果たすべきだ」には同感で、読売、毎日も同様である。

 各国が月に注目するのは資源開発であるが、現在、月など天体の資源開発に関する国際的な取り決めがないため、「月を舞台にした資源獲得競争が起きる恐れもある」(読売など)からである。

 ただ、国際ルールづくりでは条約などによる規制は現状難しいため、主流となっているのが国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)によるガイドラインづくりである。

 ガイドラインは違反しても罰則はないが、賛成した国は順守を求められるもので、6月21日には宇宙の長期持続可能な利用のためのガイドラインが採択され、「日本は採択に反対する中露の取り込みに協力した」(毎日)。

◆ごみ対策必要だが…

 毎日は「増え続ける宇宙ごみ対策や、観測衛星を使った防災対策などでも存在感を示す。大国の軍事競争とは一線を引いた日本らしい貢献といえる」と強調した。妥当な指摘ではあるが、この点だけだと若者に与える夢にやや欠けるか。

(床井明男)