韓国禁輸でWTO日本逆転敗訴に怒り心頭の産経、冷静過ぎる朝日
◆「釈然としない」判断
2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、韓国が福島など8県産の水産物輸入を禁止している問題で、世界貿易機関(WTO)の最終審に当たる上級委員会は、禁輸を「不当」と見なした紛争処理小委員会(パネル、一審に相当)の判断を取り消し、日本の逆転敗訴とした。
この判断に対して、各紙は17日までに在京7紙全てが社説を掲載した。その論調は「残念」「予想外」「すっきりしない」など、ほぼ共通した内容が多かったが、それでも違いが少なくなかった。
13日付社説見出しで「何のためのWTOなのか」と怒り心頭なのが産経で、冒頭でも「到底、納得できない乱暴な判断である」と断じた。
確かにその通りで、最終審はパネルの判断に瑕疵(かし)があるとしながらも、日本が主張した科学的な安全性を否定するわけでもなく、また韓国の禁輸をWTO協定に整合的と認定したわけでもない。まさに「釈然としない」(産経)内容で、「詰まるところ、ルール違反かどうかを明確にしないまま、ただ訴えを退けただけ」なのである。
上級委が問題視したのはパネルの手続きで、韓国の主張に基づく一部基準の分析が不十分だったなどとしている。これに対し同紙は、議論が不十分ならば、上級委でさらなる検討をすればいい、として「そうした作業もなく、パネル判断を取り消すのはあまりにも無責任だ」と強調するが、これまた同感である。
上級委の審理は差し戻すことができず、今回の判断は30日以内にWTOで正式に採択され確定する。そんなわけで、他紙も憤懣(ふんまん)やる方ない思いで、「日本は、科学的根拠に基づき、水産物の安全性を訴え続けるしかない」(読売14日付)、「政府は被災地の復興に向け、科学的な根拠を欠く輸入規制は早急になくすよう韓国を説得してもらいたい」(日経13日付)と訴えるしかない感じである。
◆上級審に朝日“理解”
これらに対して、日本の逆転敗訴を「極めて残念だ」としながらも、「対抗措置も視野に入れて紛争解決機関の判断にゆだね、主張の根幹が否定された以上、結果は素直に受け止めるべきだ」と冷静な反応を見せたのが朝日(16日付)である。
同紙は言う。小委が認めた日本の食品の安全性については、上級委も異を唱えなかった。だが、放射性物質に対する「安全」と「安心」の判断は、人により違う。各国も国際ルールを尊重しながら、自国民の「安全」をどう守るのか、それぞれ判断して決める。上級委は、その裁量の幅を広めに認めたと言える――。
上級委の判断に“理解”ある見解である。
朝日は、福島県での水産物の放射性物質の調査では、一つでも基準値を超えた場合は国が出荷制限を掛け、調査の頻度や数を増やして対応していることを挙げながら、「国内外の不安をぬぐうため、今後はこれまで以上に、そうした取り組みを詳しく紹介し、客観的なデータを示すよう努めたい」とした。
結局は他紙と同様な対応になるのだが、同紙の先述の上級委への“理解”を踏まえると、こうした努力は必ずしも報われるとは限らないむなしさを強く感じさせることにならないかどうか。
◆改革が必要なWTO
毎日(13日付)は輸入食品の安全性に敏感になるのはどこの国も同じ、韓国が神経質になるのは日本の水産物に関する情報が不足している面もあるのではないかとして、「消費者への働きかけも重要」と強調。
韓国からの訪日客は昨年過去最高を更新し、日本の食文化への関心も高いから、「安全性に理解が深まれば、インターネットで評判が広がる効果も期待できる」と、韓国内の世論を通じた韓国政府自らの政策変更を促す作戦を提案するが、一理ある。朝日も客観的なデータを示す努力だけでは無力感を感じるのか、毎日と同様、日韓間の活発な民間交流の活用を指摘する。
7紙全てが、WTO改革の必要性を指摘したが、これは当然である。
(床井明男)