WTO逆転敗訴、引き続き禁輸解除を訴えよ
2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、韓国が福島など8県産の水産物輸入を禁止している問題で、世界貿易機関(WTO)の最終審に当たる上級委員会は、禁輸を「不当」とみなした紛争処理小委員会(パネル、一審に相当)の判断を取り消し、日本の逆転敗訴とした。パネルの判断が覆されるのは異例のことだ。
日本食品の安全性は認定
日本は15年5月、韓国の禁輸措置がWTOの協定違反だとして提訴した。WTOのルールでは、食品の安全を確保するための衛生協定などが定められており、各国が独自の基準を設けることを認めている。
それでも、パネルは昨年2月に「恣意(しい)的または不当な差別」「必要以上に貿易制限的」と判断し、韓国に禁輸を是正するよう勧告した。
これに対し、上級委は原発事故があった日本周辺の海洋環境や、韓国が許容できる放射性物質の量などを、パネルが十分考慮しなかったと批判。自然界に存在する放射性物質の検証も欠けていたと指摘した。
一方、上級委は日本の水産物の安全性を認めたパネル判断は否定しなかった。ただ、韓国の禁輸措置に対する是非の評価をしていないため、日韓両国の解釈に異なる余地を与えることになった。
審理は差し戻すことができない。上級委の判断は30日以内にWTOで正式に採択され、確定する。韓国が禁輸を是正する必要はなく、日本の実質的な敗訴となったが、玉虫色の判断ではすっきりしない。
上級委がパネルの判断を覆すことは珍しく、日本にとっては想定外の結果となった。それでも、日本産食品の輸入を規制している国・地域に対し、解除するよう引き続き働き掛けていくべきだ。
原発事故後、一時は54カ国・地域が日本産食品に対し、禁輸や追加検査などの輸入規制を導入した。その後、規制の撤廃は進んでいるが、事故から8年が経過した現在も、韓国、中国、香港など23カ国・地域が制限を続けている。日本は上級委の判断でも日本産食品の安全性が認定されていることを強調し、誤解や風評被害を防がなければならない。
特に韓国は、日本の農産物・食品の輸出額が634億円で世界5位、水産物に限っても158億円で7位と主要な市場だ。日本の食品検査は国際基準よりも厳しく、基準値以上の放射性物質は検出されていない。安全性に関する情報発信を強化し、信頼を回復する必要がある。
日本は農産物輸出を19年に1兆円まで拡大する目標を掲げている。各国の規制が解除されれば輸出拡大を後押しすることにもなろう。
上級審の体制整備を
上級委の判事に当たる上級委員の定員は7人だが、うち4人が欠員となっている。知的財産の盗用など貿易ルールに違反する中国への対応などをめぐってWTOを批判してきたトランプ米政権が委員の任命や再任を拒否しているためだ。
上級審が機能不全に陥ることのないよう、体制を整備することが求められる。