世界を揺るがす中国経済の大失速と日本経済への影響を特集した2誌
◆28年ぶりの低水準に
中国経済の減速が止まらない。中国政府は今年1月21日に2018年の国内総生産(GDP)を前年比6・6%増と発表した。これは17年の6・9%増を下回り28年ぶりの低水準となった。経済減速の背景には、それまでのバブル経済に対する債務圧縮政策や近年の米中貿易戦争による影響があることは言うまでもない。
中国政府は今年1月に減税などを含む1兆3000億元(約21兆円)規模の景気対策を打ち出し、3月5日から始まった第13期全国人民代表会議(全人代)第2回会議でも2兆元(約33兆円)規模の減税、手数料削減の方針を示した。しかし、それらが景気浮揚の特効薬になるとも思えず、中国経済の先行きはいまだ不安感が拭えないというのが実情のようだ。
◆潜む根深い構造問題
そうした中で、週刊エコノミスト(3月19日号)と週刊ダイヤモンド(3月16日号)が中国特集を組んだ。エコノミストのテーマは「中国大失速」。ダイヤモンドは「米中依存メーカーの分水嶺」である。
とりわけエコノミストの特集のリードには、「中国の景気減速が世界を揺るがせている。その背景には、米中貿易摩擦だけでなく、根深い構造問題が潜んでいる。中国で今、何が起きているのか、総力特集した」と掲げ、同号の表紙には「過剰債務が引き起こした28年ぶり低成長」「全人代開幕 景気対策に効果はあるか」「アリババのマー会長 共産党との間に何が?」「ファーウェイの実像と虚像」といった小見出しが並ぶ。
ここで同誌が景気減速の原因として挙げる「根深い構造問題」の一つに「焼銭」モデルを指摘する。要するに、「焼銭」モデルとはベンチャー企業などに対して、投資ファンドなどのベンチャーキャピタルが融資し、「巨額の赤字を許容して広告や割引サービスに積極投資し、ユーザーの拡大を狙う手法」だ。ただ、市場を独占するほどになれば、利益を得ることもできるだろうが、そうとは限らない。結局、ベンチャー企業は資金を流出するだけで債務のみが膨れる。こうした企業と家計を合わせた民間部門の債務合計が17年7月末時点にはGDP比で200%の水準に達する。中国政府は過剰債務問題を解決するため、昨年は金融引き締め政策に出たものの、そこへ米中貿易摩擦が出たことでさらに景気減速に拍車が掛かったというわけである。
問題は、中国の景気減速がいつまで続くのか、ということ。エコノミストは「(米中の)貿易摩擦問題への懸念はある程度、和らいだとしても、あくまで中国の景気減速の一要因に過ぎない」(真家陽一・名古屋外国語大学教授)、「今回の内需刺激策は、現状を放置すると大変なことになるという政権の強い危機感を反映している」(関辰一・日本総合研究所副主任研究員)と指摘、中国政府の景気対策が“一過性のもの”で、根本的な解決にはなっていないと説く。
◆期待できぬ短期解決
そこでもう一つの問題として浮上してくるのが、中国の景気減速が及ぼす日本経済への影響だ。
ダイヤモンドは「(米中の)先行きの不透明さを理由に、設備投資を凍結して何の決断もせずに思考停止するだけでは、無策に等しい。/米中が繰り広げているのは、ハイテク覇権争いである。将来の国益となる技術覇権、国家の安全保障を支える軍事覇権を懸けた戦いであり、円満解決は難しい。…自由貿易というルールが崩れた今、開発、生産、販売などのバリューチェーンをどう配置するべきなのか、まさしく日系メーカーは分水嶺に立っている」と指摘する。
米中の貿易摩擦は単に経済問題の域を超えて、世界の覇権を争うほどの国際政治問題になっていることを考えれば、短期的な解決は期待できない。それだけに日本のメーカーは想定外のためのリスクヘッジを常に準備していく必要がある。
(湯朝 肇)