TPPの年内発効を評価するも米国に復帰を呼び掛けない産経・読売

◆米への姿勢で相違点

 米国を除く環太平洋連携協定(TPP)参加11カ国の新協定「TPP11」が、年内に発効することが確定した。米国が抜けたとはいえ、総人口約5億人、国内総生産(GDP)の合計は世界全体の約13%を占める一大経済圏の誕生である。

 在京紙では、これまでに朝日と東京を除く5紙が、社説で論評を掲載した。掲載順に見出しを挙げると、毎日(1日付)「米圧力に多国間で対抗を」、日経(2日付)「TPP11の輪を広げるのが次の課題だ」、本紙「参加国拡大で自由貿易推進を」、産経(3日付)「成果広げて米国に迫れ」、読売(4日付)「自由貿易守る防波堤にしたい」である。

 各紙ともTPPの早期発効を評価し、参加国拡大を求める点では一致したが、米国に対する姿勢、対応という点では少なからぬ違いを見せた。

 見出しの通り、どこまでも対立軸として捉えたのは毎日。「米国発の貿易摩擦で世界経済を混乱させているトランプ政権への対抗軸として活用すべきだ」との主張で、TPPが発効し参加国同士の貿易が盛んになれば、米国への依存度が低下し「米国の圧力をしのぐ防波堤になる」というわけである。

 この主張は、来年1月から始まる日米間の物品貿易協定(TAG)交渉でも同様で「米国をけん制できる」とし、また、中国やインドが入る東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉でも、「米国への対抗力は強まる」との視点から、日本は交渉をリードすべきだと説く。

◆産経も対抗論を展開

 リベラル系の新聞として、毎日の視点はある意味、予想通りで、米国にTPPへの復帰を促す文言がないのも合点がいくが、保守系の産経や読売にもないのは、どういうわけであろうか。

 この点を明確に指摘したのは本紙のみで、「本来であれば米国のTPP復帰が望ましい。11カ国に米国が加われば人口は8億人以上、GDPは世界全体の約4割に拡大する。日本は米国に復帰を粘り強く働き掛ける必要がある」とした。

 日経は、直接的な表現はないものの、「TPP11が発効し、米国の企業や農家が不利な競争条件を強いられれば、トランプ米政権に方向転換を求める声も広がるのではないか」と指摘し、TPP復帰への再考を示唆するものになっている。

 ところが、産経は「日本が重視する多国間の連携で成果を積み重ねることは、2国間の交渉で自国優位の協定をのませようとする米政権の保護主義的な動きに対抗するのに欠かせない」と毎日と同様の対抗論にとどまっている。

 2国間交渉に重きを置くトランプ政権に当面「TPP復帰」は見込めないと諦めているからなのかどうかは分からないが、誠に残念である。

 読売も同様で、「多くの関税を撤廃する加盟国は域内輸出で米国より優位に立つ。多国間協定のメリットを顕在化させ、保護主義から自由貿易を守る防波堤として機能させたい」と妥当な指摘をしながら、対米国への直接的なアプローチの言葉がないのである。

◆中国牽制を各紙指摘

 残念なのはこの点だけで、毎日を除く保守系紙は、今回のTPP11の迅速な発効の背景に、米国だけでなく中国を牽制する狙いがあることを明らかにしている。

 協定には、知的財産権の侵害や国有企業への過剰な補助金支給などに歯止めをかける規定が盛り込まれた。読売は「中国を念頭に置いた」ものと指摘し、「TPPルールが国際標準になれば、中国がこうした行為を続けにくくなる効果が得られよう」とした。

 日経は「中国の国家資本主義に対抗する力も増すだろう」と見たほか、産経はよりはっきりと、「TPP11には、経済、軍事面で覇権志向が強い中国の国家資本主義の影響が域内で増すのを牽制するという本来の戦略性もある」とTPPの意義を強調した。

 本紙も同様で、「TPP参加国が増えてルールが定着すれば中国を牽制することにもなる。トランプ氏は世界経済に打撃を与える保護主的な政策を取るよりも、高いレベルの自由貿易を推進すべきでないか」として、米国へのTPP復帰の働き掛けを説くのである。

 こうした中国牽制論は、毎日には全くみられない。

(床井明男)