世界の現状を地政学的に世界史と重ねて読み解く週刊ダイヤモンド
◆米中覇権戦争勃発も
今日ほど「地政学」という言葉が重要性を持って捉えられる時代はない。ボーダレス、グローバル化が進んだ現代世界を見渡せば、紛争状態あるいはその危険性を有する地域が幾つも存在する。そして、それらの地域が地政学的要衝であることが指摘される。
例えば、東アジアを見れば北朝鮮をめぐって米国と中国、加えて日本、韓国と北朝鮮の駆け引きが続く。一方、中国は覇権国家米国に対抗すべく西太平洋での覇権を握ろうと露骨に海洋進出を重ねる。南シナ海、東シナ海を自国の領海に組み入れようと軍事力を使って画策、既に南沙、西沙諸島には軍事基地さえ建設している。そこは中国にとって太平洋に向かう拠点の役割を果たすというのである。
20世紀後半、東西冷戦は終結し米国一強時代が継続すると思われた。しかし、昨今の米中貿易戦争を見れば、米国の衰退化は白日の下にさらされ、巨大な市場と強力な一党独裁を武器に世界拡散を狙う中国の思惑が見え隠れする。まさに米中による新旧覇権戦争が勃発しそうな気配さえ見えてくるのだ。
◆世界分割を狙う中国
そうした中で週刊ダイヤモンドは11月3日号で、地政学をテーマにした特集を組んだ。テーマは「投資に役立つ!地政学世界史」。そのリード文には次のような文言が並ぶ。「混沌とする世界情勢を理解し、投資を行っていくには、地政学や世界史を学ぶことが有意義となる。本特集では、そのエッセンスをお届けする」と綴(つづ)る。
そもそも地政学とは、地理(ジオグラフィー)と政治(ポリティックス)を結び付けた造語で、比較的新しい学問である。その昔、ナポレオンが「その国の地理を理解すれば、その国の外交政策が分かる」と話したと言うが、まさに地理的な環境が国家の政治、外交、軍事等に影響を与えるという意味で地政学は国家存亡の理論とも言える。さらに世界史といえば、それは通常、国家存亡史を意味する。
ところで、ドイツで地政学を確立したのはカール・ハウスホーファーという帝国陸軍の軍人で後にミュンヘン大学で教鞭(きょうべん)を執った人物だった。彼が示した概念は「世界をドイツ、日本、ロシア、アメリカの4大国が世界を分割して勢力圏を設定する」というもので、後にヒトラーにも大きな影響を与えたと言われる。「世界を四つに分ける」など4大国以外の国からすれば、「何を勝手なことをほざいている」ということになるが、今から約3年前、中国の習近平国家主席が、これに近いことを提唱したのを覚えているだろうか。いわゆる「新型大国関係」である。
同主席が当時のオバマ米大統領に対して、「米中両国が衝突を避け、双方の核心的利益を尊重し、ウィンウィンの関係を構築しよう」と持ち掛けたのだが、この言葉の裏には、中国の核心的利益の容認、すなわち、尖閣諸島、南シナ海、東シナ海の中国の領有を認めよという思惑がある。もっと分かりやすく言えば、西太平洋は中国が覇権を持ち、東太平洋に関しては米国が覇権を持てばウィンウィンの関係になれると提案したのである。
◆戦争突入の割合75%
もっとも、米中貿易戦争にしろ、中国の覇権拡大にしろ、中東の紛争といった背景には、何といっても米国の衰退がある。確かに、米国が世界一の経済大国とはいえ、第2次世界大戦後も朝鮮戦争からベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン紛争、イラク戦争とひっきりなしに戦争を続けていけば自国の経済も疲弊するというもの。トランプ米大統領は「米国第一」を掲げて外交戦略を構築しているが、今回の米中貿易戦争についてダイヤモンドは「トランプ氏が仕掛けた貿易戦争での先制攻撃は、技術や経済力、軍事力などあらゆる面で世界の覇権争いを繰り広げる両国の戦いが本格化した象徴的な出来事の一つにすぎない。米中の対立軸が長きに及ぶ可能性が高いことは頭に入れておくべきだろう」と指摘する。
古代ギリシャの歴史家トゥキディデスは、台頭してきた新興勢力が既存の覇権国である大国に挑戦した場合、最終的には戦争に突入すると警告している。実際、過去500年の歴史の中で、新興国と覇権国が戦争に突入した割合は75%に上る。米中貿易戦争は単なる経済的な小競り合いではないことを承知しておかなければならないだろう。
(湯朝 肇)





