外国人労働者受け入れ拡大で「中国人問題」に関心示さぬ親中リベラル紙

◆国防義務持つ中国人

 2020東京五輪の聖火リレーまで12日であと500日。都道府県の担当者はルート選びに頭を悩ましているという。走る距離が東京五輪と比べて短縮されており、年末までの選定に向けて調整が難航しているそうだ(朝日11日付)。知恵を絞って五輪成功へ盛り上げてもらいたい。

 そんな聖火リレーが中国人によってミソを付けられたのは08年の北京五輪の時だ。当時、中国のチベット弾圧が世界を震撼(しんかん)させ、聖火リレーへの抗議行動が各地で行われた。中国はこれに対抗して長野市で約4000人もの中国人留学生らを動員し、聖火が通る繁華街を中国国旗で埋め尽くし、日本人に暴行を振るうなど異様な事態を招いた。

 これには中国に親しみを持つ日本人すら驚いた。中国人留学生らは一見、日本に溶け込んでいるようだが、いざとなると中国大使館の指示に従い、本国の反日デモの「愛国無罪」(国を愛することから行われる蛮行に罪はない)さながらに秩序を破る。何よりも驚かされたのは、中国当局の指示が日本の隅々にまで伝わり、長野への強力な動員力を誇ったことだ。おまけに中国はその2年後の10年7月に国防動員法を制定している。

 同法は中国が有事の際に「全国民が祖国を防衛し侵略に抵抗する」ため、あらゆる物的・人的資源を徴用できるとし、「18歳から60歳の男性と18歳から55歳の女性で、中国国外に住む、中国人」に国防義務を課す。つまり、日本に在住する中国国籍を持つ中国人(昨年末、約73万人)も国防義務の対象だ。いったい有事に日本国内でどんな事態が生じるだろうか。

◆避けられぬ移民問題

 いささか前置きが長くなったが、外国人労働者の受け入れを拡大する入管法改正案の想定する「外国人」には、むろん中国人が含まれている。ところが、同法案をめぐる論議ではこんな話題はほとんど出てこない。

 もとより「治安」は課題の一つだ。安倍政権を支持する産経も同法案には辛い。2日付主張は「法案には、問題や不明点があまりにも多い。移民を受け入れる多くの国が社会の分断や治安の悪化に苦しんでいる現実もある。制度に抜け道やあいまいさを残したまま、『社会実験』を行うようなまねは許されない」と批判する。

 法案はこれまで認めてこなかった単純労働を容認し、実質的な永住にも道を開く内容だ。「態勢を整えないまま踏み切れば社会に混乱が起き、将来に禍根を残そう」との指摘はもっともだ。

 「移民」ではサッチャー元英首相と並び「鉄の女」と称されるメルケル独首相も躓(つまず)いている。同首相は15年に100万人を超える難民のドイツ移入許可を出し、中東から難民が殺到した。その難民の1割以上が失踪するなどさまざまな軋轢(あつれき)をもたらし、地方選で相次いで敗北。21年に退陣すると表明したばかりだ。

 こうした欧州の難民問題と日本の入管法改正案を同列で論じるのは乱暴かもしれない。だが、実質的な永住にも道を開くとなれば当然、「移民問題」に向き合わざるを得ない。

◆想像力に欠ける朝日

 これに対して朝日は治安や安保に関心を示さない。3日付社説は「(同案の)与党審査では、治安悪化への懸念をはじめ、『いかに管理するか』という視点からの議論が多かった。相手は生身の人間だという当たり前の視点が、欠けていたと言わざるを得ない」と批判する。確かに「生身の人間」ではあるが、その人間が何をもたらすのか、朝日は想像力に欠けているようだ。

 本欄10月22日付の「『移民大流入』に日本人が耐え得るのかとの問い掛けがない新潮の特集」で、岩崎哲氏は「生身の人間」がもたらすリアルな現場を描き、「(労働力不足を)安易に移民で補おうとするとき、文化的、宗教的課題が手付かずだ。日本人が本当に『多様性』を受け入れる能力と覚悟があるのか、そういう問い掛けも必要だ」と述べている。

 これに「中国人問題」も加えたい。生身の人間は同時に「国籍を有する人間」でもある。中国のような独裁国家は国外にいる自国民にも権力を及ぼそうとする。民主国家と異質のこうした国にどう臨むのか。入管法改正案にはそんな課題もあるはずだが、親中リベラル紙はお構いなしか。

(増 記代司)