日米のインド太平洋構想で中国「一帯一路」の問題点をスルーした毎日
◆アジア重視示した米
会談で「日米同盟はかつてないほど強固だ」と強調する安倍晋三首相に、米国のペンス副大統領は「自由で開かれたインド太平洋を実現したい」と持ち掛けた。安倍首相と来日したペンス氏は「自由で開かれたインド太平洋」の推進を柱とする共同声明を発表し、同盟関係と連携を一段と強化していくことで一致した。会談で両氏はこの地域のインフラ整備に、日米が協調して最大700億㌦の支援を行うことで合意したのである。
ペンス氏は東南アジア諸国連合(ASEAN)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合への出席に先立って来日したもので、共同声明を通して具体的にアジアへの米国の積極的な関与への意欲を示した意義は極めて大きいと言えよう。「安倍外交にとって大きな成果」(日経14日付社説)と評価できる。
それは「アメリカ第一」のトランプ米大統領がアジア歴訪を見送ったことから出ていたアジアでの「米国の存在感が薄まる」ことの裏返しに、中国をさらにのさばらせることへの懸念を払拭したからである。14日付で朝日を除いて出た各紙の論調(社説・主張)も、次のように概(おおむ)ね前向きの評価である。
「アジアの繁栄と安定にはさらにオーストラリアなどとも連携していくことが大事になる。今週開かれる一連の首脳外交をその場としたい」(日経)。
「堅固な日米同盟は、アジア太平洋地域の安定と繁栄の基盤である。緊密な政策協調を進めて、共通の利益の拡大に努めなければならない」(読売)。
◆対中政策で日米連携
「東アジアサミット(EAS)など、地域の首脳が集う一連の会合を前に、日米が目指す一つの方向性を内外に示したことに意義がある」とした産経は、さらに「巨大経済圏構想『一帯一路』に基づく勢力拡大や一方的な海洋進出で膨張する中国に、日米が中心となり対抗する意思を明確にしたものだ」と踏み込んだ評価をした。ペンス氏は10月に、トランプ政権の中国政策に関する演説で、南シナ海の軍事拠点化や尖閣諸島周辺の日本領海への中国公船の侵入など覇権主義的行動から人権問題(ウイグル問題など)まで包括的な中国批判を行い、断固たる措置を取る方針を示している。産経はこうした中国の問題点を明確に指摘し、ペンス氏の「アジア歴訪は、それを行動に移した第一歩と受け止めるべきだ。連携を表明した日本にも、相応の覚悟」が必要だとしたのは筋の通った主張である。
もっとも、このあたりの中国の問題点については日経も読売も、表現はソフトだが的確に指摘している。日経は「中国が政治経済の両面において、国際ルールに沿って行動する国になるのかどうかは、21世紀の世界秩序を左右する。/そのためにも日米を軸とした揺るぎない枠組みをしっかり固める必要」を説く。読売は「日本は、米国と連携しつつ、地域の安定を損ねる中国の行動については自制を促すこと」を求めたのである。
◆米のみ牽制する毎日
これらと異なり日米のインド太平洋構想に懐疑的な論調だったが毎日である。先月の日中首脳会談で安倍首相が「一帯一路」への協力姿勢を見せ、一方で米国は中国との対立を先鋭化させており「日本の立ち位置は難しくなっている」と指摘。米国との連携は当然だとしつつも「だからといって米国と一緒になって一帯一路に対抗色を強めれば日中関係が再び逆戻りする」ことを懸念。そして「中国との経済協力を進める現実的なアプローチをとりつつ、米国の対中強硬路線が行き過ぎないように目配り」が必要だとするまとめで、米国の姿勢を牽制(けんせい)する。
だが、この指摘はアベコベである。毎日の社説は、他紙が一帯一路に言及するとき必ず指摘する「アジアを中心に、相手国を過剰債務に陥らせ、地域の不安定化を招いている」(読売)などの問題点については全く触れないままに、米国の強硬路線の行き過ぎだけに警戒を呼び掛けているのは解せない話と言わなければならない。
なお、日米は連携を強化しているが、安倍首相との共同記者会見でペンス氏が貿易不均衡への不満を述べたことは見落としてはならない。「重要になるのが、日米の通商摩擦を顕在化させないことだ」「双方の努力で、円満な決着へ知恵を出さねばならない」(日経)ことにも留意したい。
(堀本和博)